神戸・姫路の弁護士による相続相談弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ(兵庫県弁護士会所属)神戸駅1分/姫路駅1分

遺留分侵害請求・遺留分算定方法について(相続法改正)

第1 はじめに

  • 遺留分制度に関する改正法のポイントは,以下の3点です。

 

  • ①遺留分権利者が取得する権利は金銭債権(1046条1項)

 

  • ②遺留分権利者から金銭請求を受けたが,直ちに金銭を準備することができない受遺者又は受贈者を保護するため,裁判所は受遺者等の請求により相当の期限の許与することができるとの制度が創設(1047条5項)

 

  • ③相続人に対する贈与について,相続開始前の10年間になされた特別受益に該当する贈与に限り,遺留分を算定するための財産の価額に算入される(1044条1項,3項)

 

(遺留分の帰属及びその割合)

第1042条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第1項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。

一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一

二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一

2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第900条及び第901条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

(遺留分を算定するための財産の価額)

第1043条 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。

2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。

第1044条 贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。

2 第904条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。

3 相続人に対する贈与についての第1項の規定の適用については、同項中「1年」とあるのは「10年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

第1045条 負担付贈与がされた場合における第1043条第1項に規定する贈与した財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。

2 不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。

(遺留分侵害額の請求)

第1046条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

2 遺留分侵害額は、第1042条の規定による遺留分から第1号及び第2号に掲げる額を控除し、これに第3号に掲げる額を加算して算定する。

一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第903条第1項に規定する贈与の価額

二 第900条から第902条まで、第903条及び第904条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額

三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第899条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第3項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

(受遺者又は受贈者の負担額)

第1047条 受遺者又は受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から第1042条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として、遺留分侵害額を負担する。

一 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。

二 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

三 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。

2 第904条、第1043条第2項及び第1045条の規定は、前項に規定する遺贈又は贈与の目的の価額について準用する。

3 前条第1項の請求を受けた受遺者又は受贈者は、遺留分権利者承継債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務の額の限度において、遺留分権利者に対する意思表示によって第1項の規定により負担する債務を消滅させることができる。この場合において、当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は、消滅した当該債務の額の限度において消滅する。

4 受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。

5 裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第1項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。

(遺留分侵害額請求権の期間の制限)

第1048条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。

(遺留分の放棄)

第1049条 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。

2 共同相続人の1人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。

 

第2 遺留分侵害額請求権

1 改正の趣旨

改正前までは,遺留分減殺請求権を行使することで物権的効力が生じると解され,行使の結果,遺留分権利者と受遺者又は受贈者との間で,対象物について共有関係が生じることが多くありました。これが円滑な事業承継の阻害要因となり,また共有関係の解消を巡って新たな紛争を生じさせているとの指摘がなされていました。

そこで,改正法は,遺留分の権利行使により生じる権利を金銭債権化しました(1046条1項)。

2 改正の内容

改正法では,遺留分に関する権利を遺留分侵害額請求権として定義しています(1046条1項,1048条)。遺留分権利者は,遺留分侵害額請求権を行使することで,受遺者等に対する遺留分侵害額に相当する金銭の支払い請求権(金銭債権)を取得することとなります。

  • (1)法的性質

遺留分侵害額請求権の法的性質は,私法上の形成権であり,行使上の一身専属権とされているため,遺留分侵害額請求権自体は債権者代位権の対象とはなりません。

  • (2)行使方法

遺留分侵害額請求権の行使方法は,受遺者等に対する意思表示によって行えば足り,訴えによる必要はありません。また,相続財産の全貌が明らかになっていないことも多いので,意思表示の時点では,必ずしも具体的な金額を明示する必要もありません。

大審院判例においては,遺言執行者のある包括遺贈については,遺言執行者に対して遺留分減殺請求の意思表示をすることができると判示したものがあります。しかし,改正法では,遺留分権利者は,遺留分侵害額請求権行使により受遺者に対する金銭債権を取得するにすぎず,遺言の執行としての目的物の処分に対する影響力はないので,遺言執行者に対し行った遺留分侵害額請求の意思表示は無効であると解されます。

  • (3)期間制限

遺留分侵害額請求権は,遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年の消滅時効に,相続開始の時から10年(除斥期間)の期間制限にそれぞれ服します(1048条)。

遺留分侵害額請求権を行使した結果発生した金銭債権についても,通常の金銭債権と同様に,別途消滅時効に服することになります。改正債権法施行(2020年4月1日)前に発生した債権の時効期間は10年間(旧167条1項),改正債権法施行後に発生した債権の時効期間は5年(166条1項1号)となります。なお,改正相続法施行(2019年7月1日)後かつ改正債権法施行前に相続が開始し,遺留分侵害額請求権の行使が改正債権法施行後になされた場合の金銭債権の時効期間については,立案担当者は5年であるとしています。

  • (4)遺留分侵害額請求権の行使により生じた金銭債権

遺留分侵害額請求権の行使によって発生する金銭債権に係る債務は,期限の定めのない債務(412条3項)であるため,遺留分権利者が受遺者等に対して具体的な金額を示してその履行を請求した時点で初めて履行遅滞になります。

  • (5)遺留分侵害額請求をされた場合の負担額(1047条1項)
ア 負担額の上限

受遺者又は受贈者は,遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定に遺産の取得を含む)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る)の目的の価額を上限として遺留分侵害額を負担します。ただし,受遺者又は受贈者が相続人の場合には,当該受遺者等が遺留分として受けるべき額を控除した額が負担額の上限となります(1047条1項柱書)。

イ 負担の順序

受遺者又は受贈者が複数いる場合の金銭債務の負担の順序は,旧法の減殺の順序に関するルールを実質的に維持しています(1047条1項各号)。

具体的には…

  • ①受遺者と受贈者があるときは,受遺者が先に負担(1047条1項1号)

 

  • ②受遺者が複数あるとき,又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは,受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う(同項2号)。

 

  • ③受贈者が複数あるとき(贈与が同時にされた場合を除く)は,後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担(同項3号)

 

  • ウ 死因贈与の取扱い

改正法は明文の規定を設けていないため,解釈に委ねられることになります。改正前の裁判例(東京高判平成12.3.8判時1753号57頁)に従うのであれば,遺贈,死因贈与,生前贈与の順で受遺者・受贈者が負担することになります。学説上は,死因贈与も遺贈に準じるものとして,同順位で扱うべきとするものもありますので,裁判所の判断が待たれるところです。

  • (6)期限の許与(1047条5項)

裁判所は,受遺者又は受贈者の請求により,受贈者等が負担する金銭債務の全部又は一部の支払いにつき相当の期限を許与することができます(1047条5項)。

期限の許与を得るための手続きについては,まず,遺留分権利者から金銭給付訴訟が提起されていない段階では,受遺者等は,期限の許与を求める訴え(形成の訴え)を提起するという方法をとることができます。

遺留分権利者が金銭給付訴訟を提起した場合において,受遺者等が期限の許与を得るためには,抗弁でその旨を主張すればよいのか,別訴ないし反訴といった独立の訴えを提起する必要があるのかは争いがありますので,この点についても今後の実務の動向を注目しておく必要があります。

 

第3 遺留分の算定方法

1 計算式

 ア 遺留分を求める計算式…1042条

   遺留分=遺留分を算定するための財産の価額×1/2×法定相続分

   (※直系尊属のみが相続人である場合には1/3)

 イ 遺留分を算定するための財産の価額を求める計算式…1043条,1044条

   遺留分を算定するための財産の価額

   =相続開始時における被相続人の積極財産の額+相続人に対する特別受益としての生前贈与の額(原則※10年以内)+第三者に対する生前贈与の額(原則※1年以内)-被相続人の債務の額

   (※贈与当事者双方悪意の場合は期間より前の贈与も算入)

 ウ 遺留分侵害額を求める計算式…1046条2項

   遺留分侵害額

   =遺留分額-遺留分権利者が受けた遺贈又は特別受益としての贈与の額-遺産分割の対象財産がある場合には,遺留分権利者が取得すべき具体的相続分の額※+遺留分権者が承継する債務の額

   (※寄与分による修正はしない。)

 

2 遺留分を算定するための財産の価額に算入する贈与

相続法改正前の実務では,相続人に対する特別受益としての贈与は,その時期を問わず遺留分を算定するための財産の価額に算入されていました(最判平成10年3月24日民集52巻2号433頁)。しかし,相続開始の何十年も前になされた相続人に対する贈与の存在によって,受遺者・受贈者が遺留分減殺を受けることになり,受遺者・受贈者が不測の損害を被るとの批判がありました。

そこで,改正法では,相続人に対する贈与は,①相続開始前の10年間になされた贈与であって,②婚姻もしくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与,すなわち特別受益に該当する贈与に限り,遺留分を算定するための財産の価額に算入することとしました(1044条3項)(相続人に対する生前贈与以外の生前贈与については,相続開始前の1年間にしたものに限り算入します)。

改正法は,遺留分侵害額を算定するにあたり,遺留分権利者が受けた903条1項に規定する贈与(特別受益としての贈与)については,その贈与の時期を問わず,その価額を遺留分額から控除するとしています(1046条2項1号)。そのため,遺留分侵害を主張する者が,相続開始前の10年間より前に被相続人から特別受益としての贈与を受けた場合,当該贈与は遺留分を算定するための基礎財産には算入されないが,遺留分侵害額の計算にあたっては,当該贈与は遺留分から控除されることになります。このように,改正法のもとでは,一方で,遺留分を算定するための基礎財産に算入される相続人に対する特別受益は期間が限定されており,他方で,遺留分侵害額を算定するにあたって控除される遺留分権利者の特別受益には期間の限定がないため,従前よりも遺留分侵害額が減少する事案が増加するとの指摘がなされています。

 

3 遺産分割の対象財産がある場合の処理

遺産分割の対象財産がある場合には,遺産分割が終了しているか否かにかかわらず,具体的相続分(寄与分の修正は考慮しない)に相当する額を控除することとしています。

 

4 負担付贈与,不相当な対価による有償行為に関する規律

負担付贈与(1045条1項),不相当な対価による有償行為(同条2項)について,それぞれ規律が整備されました。

 

5 遺留分侵害額の算定における債務の取り扱い

遺留分侵害額の請求を受けた受遺者又は受贈者は,遺留分権利者が被相続人から承継した債務について,弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは,消滅した債務の限度において,遺留分権利者に対する意思表示により,遺留分侵害額に係る債務を消滅させることができます(1047条3項前段)。これは,受遺者等が免責的債務引受をした場合には,受遺者等は遺留分権利者に対する求償権を取得せず(472条の3),相殺による処理ができないこと等を考慮し設けられたものです。

 

第4 最後に

遺留分侵害額請求は,行使について相続開始を知った時から1年間という期間制限があり,その後も侵害額の計算等が複雑になることが予想されます。相続開始後の対応等も何かアドバイスさせていただけることがあるかもしれませんので,遺留分侵害の可能性がある場合には,一度この分野に詳しい弁護士にご相談されることをおすすめします。