民事信託(家族信託)とファイナンス(債務控除の問題)

1.民事信託(家族信託)と債務控除の問題

【相談例】

『高齢の父の認知症対策として、父の所有する土地に対して民事信託を設定することを検討しています。設定後、相続税対策の意味も込め、金融機関から融資を受けて、この不動産に賃貸住宅を建築する予定です。この融資債務について、父の相続発生時に相続税の債務控除を受けられるのでしょうか。』

   このように民事信託(家族信託)を組成するにあたり、相続税対策として、金融機関から受けた融資債務について相続税の債務控除を受けられることを期待されている方(金融機関・ハウスメーカーを含む)も多くいらっしゃると思います。では、民事信託(家族信託)を組成するにあたり、どのような点に注意すれば、相続税の債務控除を受けることができるのでしょうか。

 

2.債務控除が問題となる場面

(1)民事信託(家族信託)と債務控除が問題となる場面

具体的には、受託者が信託財産を所有しているだけでなく、債務も負担している場合において、委託者が死亡したことにより信託が終了したとき、帰属権利者等である相続人は債務控除を受けられるか、ということになります。  

 

(2)相続税法第9条の2に即しての見解

この点について、想定される適用条文である相続税法第9条の2に即してみてみましょう。

相続税法第9条の2(贈与又は遺贈により取得したものとみなす信託に関する権利)

 

1 【信託の効力発生時に受益者になった場合】

   信託(省略)の効力が生じた場合において、適正な対価を負担せずに当該信託の受益者等(省略)となる者があるときは、当該信託の効力が生じた時において、当該信託の受益者等となる者は、当該信託に関する権利を当該信託の委託者から贈与(当該委託者の死亡に基因して当該信託の効力が生じた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。

 

2 【信託設定後、新たに受益者になった場合】

    受益者の存する信託について、適正な対価を負担せずに新たに当該信託の受益者等が存するに至った場合(第四項の規定の適用がある場合を除く。)には、当該受益者等が存するに至った時において、当該信託の受益者等となる者は、当該信託に関する権利を当該信託の受益者等であった者から贈与(当該受益者等であった者の死亡に基因して受益者等が存するに至った場合には、遺贈)により取得したものとみなす。

 

3 【信託設定後、既存の受益者が新たに受益権を取得した場合】

受益者等の存する信託について、当該信託の一部の受益者等が存しなくなった場合において、適正な対価を負担せずに既に当該信託の受益者等である者が当該信託に関する権利について新たに利益を受けることとなるときは、当該信託の一部の受益者等が存しなくなった時において、当該利益を受ける者は、当該利益を当該信託の一部の受益者等であった者から贈与(当該受益者等であった者の死亡に基因して当該利益を受けた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。

 

4 【信託終了時に、帰属権利者らが残余財産を取得した場合】

 受益者等の存する信託が終了した場合において、適正な対価を負担せずに当該信託の残余財産の給付を受けるべき、又は帰属すべき者となる者があるときは、当該給付を受けるべき、又は帰属すべき者となった者は、当該信託の残余財産(当該信託の終了の直前においてその者が当該信託の受益者等であった場合には、当該受益者等として有していた当該信託に関する権利に相当するものを除く。)を当該信託の受益者等から贈与(当該受益者等の死亡に基因して当該信託が終了した場合には、遺贈)により取得したものとみなす。

 

5 省略

6 第1項から第3項までの規定により贈与又は遺贈により取得したものとみなされる信託に関する権利又は利益を取得した者は、当該信託の信託財産に属する資産及び負債を取得し、又は承継したものとみなして、この法律(省略)の規定を適用する。ただし(以下、省略)。

 

(3)相続税法9条の2第6項の適用範囲

上記(2)のとおり、相続税法9条の2第6項は、相続が発生した場合において、「当該信託の信託財産に属する資産及び負債を取得し、又は承継したものとみなして」、相続税法を適用する(=債務控除を認める)としています。

しかしながら、相続税法9条の2第6項は、「第1項から第3項までの規定により」として、信託が終了した場合(相続税法9条の2第4項)を除外しているのです。

 そこで、信託が終了した場合(第4項)には、同条項の適用がなく、帰属権利者らが「負債」を「承継したものとみな」せないのではないか(=信託終了時に帰属権利者らが債務控除を受けられないのではないか)という点が問題となるのです。

 

(4)清算の原則と実務対応

 信託法は181条において清算の原則を定めていることから、信託終了時に清算を行うのが原則ですが、実務的には融資債務の信託終了時においては清算を行わず、受託者が所有していた積極財産と負担していた消極財産をそのままの形で、帰属権利者らに承継させているようです。

 しかしながら、このような場合においても債務控除が認められるか否かについて、現時点(令和1年7月時点)では、国税庁の考え方が明らかではありません。

 そこで、最新の議論においては、民事信託(家族信託)の融資案件に債務控除を認められるためには、委託者の死亡により信託を終了させないとする条項例を採用することが望ましいと考えられています。   

 

(5)委託者の死亡により信託を終了させないとする条項例

   具体的には、次のような条項例が関係しますので、参考にしてください。

【条項例①:債務引受等】

『第〇条 受託者は、債務目録記載の委託者の債務を引き受ける。

   2 委託者と受託者は、前項に関し、債権者との間で免責的債務引受のために必要な手続を行う。

   3 受託者が債務引受した第1項の債務は、信託財産責任負担債務とする。』

(解説)上記は、受託者が債務引受をした融資債務についての例ですが、同債務を信託財産責任負担債務とする旨を明記することで、同融資債務が信託財産をもって履行すべき義務を負う債務となります。

【条項例②:受益者】

『第〇条 本信託の当初受益者は、委託者Xである。

   2 当初受益者Xが死亡した場合には、第二次受益者として受託者Yを指定する。

   3 前項の場合、当初受益者Xが有していた受益権は同人の死亡により消滅し、第二次受益者Yは新たな受益権を取得する。』

(解説)相続税法9条の2第2項を念頭に置いた規定です。

【条項例③:信託の終了事由】

『第〇条 本信託は、当初受益者の死亡後、●か月が経過することにより終了する。』

(解説)委託者の死亡により信託を終了させないための条項です。●に入る期限に特に決まりはなく、委託者の死亡後信託が終了するまでの期限(6か月等)を定めてください。

【条項例④:残余財産受益者】

『第〇条 委託者の長男Yを本信託の残余財産受益者として指定する。』

【条項例⑤:残余財産等の承継】

『第〇条 信託の終了にあたって、残余財産受益者は、信託法181条の規定にかかわらず、信託財産及び信託財産責任負担債務を現状のまま承継することができる。』

(解説)信託法は181条において清算の原則を定めていることから、信託終了時に清算を行うのが原則ですが、実務的には、融資債務の信託終了時においては清算を行わず、受託者が所有していた積極財産と負担していた消極財産をそのままの形で、帰属権利者らに承継させていることから、その旨を明記した条項です。

 

3.まとめ(債務者の問題)

  その他、債務控除を受けるためには、実質的に、委託者兼受益者が負担する債務であると評価される必要があります。信託契約書で、委託者兼受益者の借入意思が明確化され、その使途が特定されるべき(受託者の恣意的な借入ではない)であるといわれています。

 また、民事信託(家族信託)における融資債務者は、受託者を債務者とすることが想定されています。この点、債務控除を受けることを想定して、委託者兼受益者を債務者とする事例や委託者兼受益者と受託者を連帯債務者とする事例等もあるようですが、債務控除を受けるためにどのような債務者の形態が適切かについては、議論の決着はついていないようです。

 もっとも、民事信託(家族信託)と債務控除の問題は、誰を債務者にするかという問題ではなく、上記2のとおり、相続税法9条の2第6項の適用範囲の問題に帰着するのではないかと思われます。

民事信託・家族信託と債務控除の問題についてお悩みの方は、この分野に詳しい弁護士にご相談ください。

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