生前贈与と遺留分侵害額請求について
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第1 はじめに
親が亡くなったときに、親の生前、他の兄弟姉妹が、亡くなった親から金銭や不動産、高価な動産をもらっていたことが明らかになることがあります。こうした親の生前にもらった財産を考慮した上で、スムーズに遺産分割協議が進めばなにも問題ありませんが、実際にはこうした財産をめぐって争いになるケースが多く見受けられます。
このように被相続人から相続人ないし第三者に対してなされた贈与のことを「生前贈与」と呼んでいます。遺産分割にあたって生前贈与があったことが分かった場合、相続人がなにを主張することができるのかについて、整理していきたいと思います。
第2 遺留分侵害額請求権
1 遺留分侵害額請求権とは
兄弟姉妹以外の相続人には、相続財産に対して主張できる最低限の相続割合が法律上定められています。この相続割合のことを「遺留分」と呼んでおり、この遺留分が侵害され場合には、侵害者に対して遺留分侵害額請求(民法1046条)を行うことができます。
父と母とその子が2人いるという家族構成を例に考えてみたいと思います。既に母は亡くなっている状況で、次いで父も亡くなったとします。父と母の子2人以外に相続人はおらず、なおかつ、亡くなった父が、子の一方に全ての財産を相続させるとの遺言を遺していた場合に、他方の子は一切父の財産を受け取ることができないのでしょうか。
このような場合に、他方の子が、父から一切の財産の相続を受けたもう一方の子に対して主張できる権利が遺留分侵害額請求権です。ここでいう「遺留分」は、無制限に主張できるものではなく、次のように法律上主張できる割合が場合分けされて定められています。
① 直系尊属のみが相続人である場合 3分の1
② ①以外の場合 2分の1
相続人が複数人存在する場合には、この割合に対して、法定相続分(民法900条)として定められる割合を乗じて遺留分が計算されます。
先ほどの例にあてはめると、直系尊属以外が相続人となっている②のケースであり、なおかつ、相続人が複数人存在するケースにあたりますので、父の遺言により相続財産をもらえなかった子が主張できる遺留分は次のとおりになります。
2分の1(②の場合のため)×2分の1(法定相続分)=4分の1
したがって、父の遺した財産が総額で4000万円存在したとすると、この4分の1にあたる1000万円について遺留分侵害額請求をすることができるわけです。
なお、近年行われた民法改正により、遺留分侵害額請求を行った場合、侵害額(先ほどの例だと1000万円)について、侵害者はこれを金銭で支払わなければなりません(民法1046条1項)。
また、遺留分侵害額請求権は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年を経過するまでに行使する必要があります。相続開始から10年を経過した場合も遺留分侵害額請求をすることができなくなりますので、とにかく早めに対応することが肝心です。
2 生前贈与がなされていた場合について
それでは次に、被相続人が死亡する前に、生前贈与がなされていた場合について整理していきます。
遺留分侵害額の算定にあたって、相続開始前の1年間に相続人以外の第三者に対して行われた贈与については、遺留分算定の基礎に含まれます。もっとも、その贈与が遺留分を主張する相続人に損害を加えることを知ってなされていた場合には、1年以上前の贈与についても算定の基礎にされることになっています。
他方、相続人に対してなされた贈与については、相続開始前の10年間になされた贈与が対象とされています。
誰に対して贈与がなされているかによって、算定対象となる贈与の時期に大きな違いがありますので注意が必要です。
第3 まとめ
このように、たとえ他の相続人よりも自分が相続する財産が少なかったり、あるいは、生前贈与により相続人間に不公平が生じていたとしても、そうした状況を遺留分侵害額請求により一定程度解消することが可能です。
遺留分侵害額請求により請求できる金額を正しく算定するためには、様々な資料を取り寄せて精査する必要がありますし、相続人となかなか交渉がうまく進まないことも少なくありません。相続問題でお悩みの際には、一度相続に詳しい弁護士への相談を検討してみて下さい。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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