遺産分割の前にすべきこと
1 はじめに
ご親族が亡くなりひと段落すると、遺産分割のことが頭をよぎることと思います。
しかし、遺産分割のために相続人で話し合う前に、まず、故人の遺言書の有無を確認しなければなりません。遺言書の内容次第では、遺産分割協議自体を行う必要がなくなることもあります。
遺言書には、自筆証書遺言と公正証書遺言があり、保管場所や発見後の手続きが異なります。
この記事では、自筆証書遺言・公正証書遺言についての説明と、遺言書に関してやってはいけないことを解説します。
2 自筆証書遺言
(1)自筆証書遺言とは
自筆証書遺言とは、遺言者が遺言書の全文、日付および氏名をすべて自分で書き、押印して作成する方式の遺言です。なお、相続財産の目録については近時の法改正でパソコン等による作成が認められるようになりました。
(2)自筆証書遺言はどこにあるか
自筆証書遺言には、決まった保管場所があるわけではありません。遺言書があるかどうかを故人から聞けていればよいのですが、そうでない場合には自分で探さなければなりません。
自筆証書遺言は、多くの場合、故人の自宅に保管されています。引き出しや金庫、たんすの引き出し等、故人が財産を保管していた場所を探してみましょう。自宅以外では、相続人以外の第三者(親しい知人や弁護士・司法書士・税理士等の専門家、金融機関等)に預けられていることもあります。
また、2020年7月からは、法務局で自筆証書遺言を保管するサービスが始まりました。相続人等は、遺言書の内容の証明書等の請求や、遺言書の閲覧をすることができます。法務局にも自筆証書遺言が保管されていないか問い合わせてみましょう。
(3)検認手続
検認とは、相続人に対して遺言の存在と内容を知らせるとともに、遺言執行前に遺言書を保全し、後日の変造や隠匿を防ぐために行う手続きです。遺言の有効性を確認する手続きではありません。自筆証書遺言を発見した場合、家庭裁判所に検認の請求をしなければなりません(法務局で保管されていた場合には検認手続は不要になります)。検認完了までには、1~2か月の期間がかかるため、自筆証書遺言を発見した際には早急に検認手続を行いましょう。
3 公正証書遺言
(1)公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを筆記して公正証書による遺言書を作成する方式の遺言です。
(2)公正証書遺言はどこにあるか
公正証書遺言の原本は公証役場で保管されます(写しを遺言者が保管している場合はあります)。公正証書遺言は公証役場の検索システムで遺言書の有無を検索することができるので、このシステムを利用して公正証書遺言の有無を調べてみましょう。
4 遺言書を見つけた後にやってはいけないこと
(1)検認せずに開けること
先ほども説明した通り、自筆証書遺言を法務局以外の場所で保管していた場合、家庭裁判所の検認という手続きを行う必要があります。検認を経ないで遺言書を開封した場合、5万円以下の過料を支払わなければならない可能性があります。検認手続を経る前に開けるのは控えましょう。
(2)遺言書の破棄・改ざん
故人の遺言書を、偽造したり、捨てたり、内容を変えたり、隠したりしたりすると、相続人の資格を失ってしまいます。そのようなことは絶対にしないでください。
5 まとめ
主な遺言の形式としては、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。自筆証書遺言は、故人の自宅等に保管されている場合と、法務局に保管されている場合があります。公正証書遺言は公証役場で保管されており、公証役場で遺言書の有無を検索することができます。
自筆証書遺言は、法務局で保管されている場合を除き、家庭裁判所での検認手続きをおこなう必要があります。自筆証書遺言を発見した際には、家庭裁判所に検認の請求をしましょう。
6 おわりに
遺言書を見つける前に遺産分割を始めてしまうと、遺言書が発見されることでそれまでの合意内容がひっくり返ってしまい、余計に時間と手間がかかることにもなりかねません。遺産分割よりも前に遺言書を探しましょう。
故人の遺言書が見つかったとしても、形式的不備やその他の理由で遺言が無効になる場合もあります。
相続の際には、この分野に詳しい弁護士に相談するのがよいでしょう。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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