寄与分と遺留分の関係性
第1 はじめに
民法には、被相続人を長年にわたって介護してきた、もしくは被相続人の家業を無給で手伝ってきたという方の相続分を増やすために、「寄与分」という制度があります。
他方で、民法は、贈与や遺贈等があった場合でも、相続人が相続から最小限得られる利益として、「遺留分」という制度も設けています。
ある相続人に高額の「寄与分」が認められた場合、他の相続人の「遺留分」が侵害されるという事態も起こりうるところ、この2つの制度の関係性は一体どうなっているのでしょうか。
今回は、この点について裁判例も交えながら解説していきます。
第2 寄与分
1 寄与分とは
民法904条の2第1項は、「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について、特別の寄与をした者があるときは」、そうした寄与分も含めて具体的な相続分を計算すると定めています。
すなわち、被相続人を長年にわたって介護してきたなどの理由により、被相続人の財産の維持又は増加に特別な貢献をした者の相続分を増やしてあげようというのが寄与分制度です。
2 寄与分が認められる要件
まず、寄与分制度によって利益を受けるためには、その人が相続人であること(配偶者や子など)が前提となります。
次に、その相続人が寄与行為、すなわち、被相続人の財産の維持又は増加に特別な貢献をしたことが必要になります。具体的には、被相続人が経営する家業を手伝っていた場合、被相続人の事業に資金を提供した場合、病気になった被相続人を看病した場合などが挙げられます。
また、寄与行為は原則として無償でなければならないと解されています。そのため、家業を手伝っていたとしても、給与や報酬を得ていた場合には、無償性の要件が欠け、寄与分は認められません。
第3 遺留分
1 遺留分とは
遺留分とは、贈与や遺贈等があった場合でも、相続人が相続から最小限得られる利益のことです。ただ、相続人の中でも、兄弟姉妹だけは遺留分を有さないので、注意が必要です。
遺留分の割合は、
・直系尊属(親や祖父母など)のみが相続人の場合には法定相続分の3分の1
・それ以外の場合は法定相続分の2分の1
とされています。
遺留分を侵害された(遺留分未満の財産しか承継できなかった)相続人は、贈与や遺贈等によって財産を多く承継した者に対して、遺留分侵害額請求という形で、金銭の支払を請求することになります。
2 具体例
例えば、被相続人に配偶者と子が3人いた場合、遺産総額が1億2000万円だとすると、認められる遺留分は次のようになります。
遺留分総額:1億2000万円×2分の1(総体的遺留分)=6000万円
配偶者の遺留分:6000万円×2分の1(法定相続分)=3000万円
子の遺留分:6000万円×2分の1(法定相続分)×3分の1=1000万円
配偶者や子は、上記遺留分を下回る財産しか承継できなかった場合には、遺留分侵害額請求を行って、不足分の金銭の支払を求めることになります。
第4 寄与分と遺留分の関係
では、これらの制度の関係性はどうなっているのでしょうか。想定される2つの場面について解説していきます。
1 遺産分割審判において、遺留分を侵害する寄与分の主張ができるか
この点について、法律上、寄与分の額に上限がない以上、遺留分を侵害する寄与分を定めることはできると解されています。そのため、理論上は、ある相続人に高額の寄与分が認められた結果、他の相続人の遺留分が侵害されても、何ら違法にはなりません。
東京高決平成3年12月24日も「寄与分の制度は、相続人間の衡平を図るために設けられた制度であるから、遺留分によって当然に制限されるものではない。」として、寄与分が遺留分に優先することを認めています。
ただ、同裁判例は、以下のようにも述べています。
「寄与分について、家庭裁判所は寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して定める旨規定していること(904条の2第2項)を併せ考慮すれば、裁判所が寄与分を定めるにあたっては、他の相続人の遺留分についても考慮すべきは当然である。確かに、寄与分については法文の上で上限の定めがないが、だからといって、これを定めるにあたって他の相続人の遺留分を考慮しなくてよいということにはならない。むしろ、先に述べたような理由から、寄与分を定めるにあたっては、これが他の相続人の遺留分を侵害する結果となるかどうかについても考慮しなければならないというべきである。」
上記裁判例からすれば、遺産分割審判において、遺留分を侵害する寄与分が認められるのは、よほど特殊な事情がある場合に限られるでしょう。
2 遺留分侵害額請求訴訟において、寄与分を主張して遺留分を減らすことができるか
今度は、1とは異なり、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けた場合について考えていきます。
結論としては、遺留分侵害額請求訴訟において、寄与分を主張して遺留分を減らすことはできません。
そもそも、条文上の根拠がありませんし、遺留分侵害額請求は訴訟によって行使される権利であるのに対し、寄与分は家庭裁判所の審判事項であって、遺留分と寄与分では行う手続が異なることなどが理由として挙げられます(東京高判平成3年7月30日参照)。
第5 終わりに
以上のように、寄与分と遺留分の関係性はとても複雑なものとなっています。
もし、寄与分や遺留分を主張したいが、どのようにすればいいのか分からないとお困りの方は、相続分野に詳しい弁護士にご相談されるのがよいでしょう。
弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ
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