空き家になっている遺産の建物を売却する方法

1 はじめに

 遺産である建物が空き家になっているという場合、当該建物をそのまま空き家として放置しておくと、将来的に、相続人にとって様々な不都合を生ずるおそれがあります。具体的には、固定資産税を払い続けなければならないだけでなく、空き家の維持管理のための費用や手間もかかりますし、場合によっては管理不備に起因する事故等について、相続人が第三者から損害賠償責任を追及されてしまうといった可能性も考えられます。
 そこで、将来的に空き家になっている建物を利用する予定がないのであれば、なるべく早いうちに当該建物を売却してしまうことも、一つの方法として考えられます。
 以下では、空き家になっている遺産の建物を売却する方法について、解説していきます。

 

2 空き家の権利関係―遺産共有

 まず、前提として、遺産である建物は、仮に空き家になっていたとしても、相続人の1人が単独でこれを売却したりすることはできないのが原則です。
 というのも、人が亡くなられて相続が開始すると、被相続人(亡くなられた方)の財産(遺産)である建物は、原則として、いったん相続人全員による暫定的な共有(遺産共有)の状態となり、民法上、共有者である相続人全員の同意がなければ、これを処分(売却)することができないとされているためです。

 

3 売却のための手続―遺産分割手続

 そこで、空き家になっている遺産の建物を売却しようとする場合には、基本的に、まずは相続人全員の間で当該建物を含む遺産を分ける手続(遺産分割手続)をすることによって、この暫定的な遺産共有の状態を解消することになります。
 なお、遺産の全部を分割することに先立って、さしあたり当該建物についてのみ遺産分割手続をすること(遺産の一部の分割)も、原則として認められています。

(1)遺産分割協議

 相続人全員の間での話合いによって遺産を分ける手続を遺産分割協議といいます。遺産分割協議により、空き家を売却することについて相続人全員で合意することができれば、当該合意に従って空き家を売却することができます。

(2)遺産分割調停

 遺産分割協議がととのわないときは、相続人は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。遺産分割調停では、裁判所を介在させる形で相続人全員が話し合うことで、遺産の分け方について合意すること(調停分割)を目指します
 調停によって、空き家を売却することについて相続人全員で合意することができれば、当該合意に従って空き家を売却することができます。

(3)遺産分割審判

 遺産分割調停によっても合意に至らないときは、遺産分割審判と呼ばれる手続により、家庭裁判所に遺産の分け方を決めてもらうことになります(審判分割)。
 遺産分割審判により、裁判所から、空き家である建物について換価分割(当該建物を競売にかけて換価し、換価金を相続人の間で分配する方法による分割)をするよう命じられた場合には、空き家を売却する(競売にかける)ことができます。
 なお、法律上は、必ずしも遺産分割審判に先立って遺産分割調停を申し立てることが必要とされているわけではありませんが、実務においては、まずは調停での話合いによって解決を試みることを原則とする運用がなされています。

 

4 最後に

 このように、遺産である空き家を処分するためには、基本的に遺産分割手続をしなければならず、場合によっては調停・審判といった裁判所の関与する手続が必要となりますので、専門的な知識が求められることも少なくありません。
 もし、「空き家になっている遺産の建物を処分したいが、どうしてよいか分からない」、「他の相続人の協力が得られず、遺産の建物の売却手続が進まない」といったことでお困りなら、相続に詳しい弁護士にご相談されるのがよいでしょう。

 

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弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ

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