節税対策としての養子縁組
第1 養子縁組が節税対策となる理由
養子縁組が相続税の節税対策になるということはご存知の方も多いのではないでしょうか。
次のような理由からです。
1 相続税の基礎控除額が増える
相続税の基礎控除の金額は、
相続税の基礎控除の金額=3000万円+(600万円×相続人の数) |
と定められていることから(相続税法15条)、養子縁組をして相続人が1人増えることで相続税の基礎控除額が600万円増えることになります。
2 生命保険の非課税枠が増える
死亡保険金には非課税限度額が設定されており、非課税限度額分の死亡保険金には相続税が課税されません。非課税限度額は、以下の計算式で求めます。
生命保険の非課税限度額=500万円×相続人の数 |
このため、養子縁組をして相続人が1人増えるとこの生命保険金の非課税限度額が500万円増えるので節税になります。
3 死亡退職金の非課税枠が増える
被相続人の死亡により支給される死亡退職金にも相続税の非課税枠が設定されており、非課税枠分の死亡退職金には相続税が課税されません。非課税限度額は、生命保険金と同様で、以下の計算式で求めます。
死亡退職金の非課税限度額=500万円×法定相続人の数 |
このため、養子縁組をして相続人が1人増えるとこの死亡退職金の非課税限度額が500万円増えるので節税になります。
第2 節税対策として養子縁組をする際の注意点
ただし、節税対策として養子縁組を検討されている場合は、次の点に注意が必要です。
1 相続税が2割加算となる
孫などを養子にする場合(一親等の血族及び配偶者以外の者を養子にする場合)、相続税は2割加算となります(相続税法18条)。
このため、養子縁組による節税効果と、相続税が2割加算となることを比較検討して養子縁組を行う必要があります。
2 養子の数には制限がある
相続税の基礎控除額、生命保険金の非課税限度額、死亡退職金の非課税限度額の計算において、法定相続人の数に含めることのできる養子の数は無制限ではなく、
①被相続人に実子がいる場合には考慮される養子は1人まで
②実子がいない場合は2人まで
とされています。
3 相続税の負担を不当に減少させる場合は認められないことも
相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合は,その養子の数が相続人の数に参入されない場合もありますので注意が必要です(相続税法63条)。
4 相続争いが生じるおそれがある
養子縁組をすると法律上の親子関係が生じ、養子にも実子と同様の相続権が発生します。
このため、実子と養子との関係が希薄な場合などにおいては、実子と養子との間で相続争いが生じるおそれがあります。これを防ぐには、生前に遺言書を作成しておくなどの対策をしておくことが有効です。
第3 実子として取り扱われる場合
次のような人は,相続税法上実子と同じ取扱いがなされます。
①特別養子縁組で養子となった人
②被相続人の配偶者の実子で、被相続人の養子となっている人
③代襲相続人
第4 養子縁組の方法
養子縁組届を市役所に提出することによって行います。
養子縁組届には、20歳以上の証人2名の署名が必要です。
養子が15歳未満の場合は、本人に代わって法定代理人(親権者など)が手続を行います。
未成年者を養子にする場合は、家庭裁判所の許可を得ることが必要となります(なお、自己又は配偶者の子や孫を養子とする場合は許可不要・民法798条)。この場合、管轄の家庭裁判所に養子縁組許可申立てを行い、家庭裁判所の許可を得てから養子縁組届を提出することになります。
第5 養子縁組が認められる要件
養子縁組が認められる要件は次のとおりです。
①養親が成年であること(民法792条)
②養子が養親の尊属や年長者ではないこと(民法793条)
③夫婦の一人が養親又は養子となる場合は配偶者の同意が必要であること(民法796条)
④配偶者のある者が未成年者を養子とするときは夫婦で縁組すること (民法795条)
⑤養子が未成年者であるときは家庭裁判所の許可があること(自己は又は配偶者の直系卑属である場合は除く)(民法798条)
⑥後見人が被後見人を養子とするときは家庭裁判所の許可があること(民法794条)