預貯金が使い込まれている
第1 預貯金の使い込み
「亡くなったお母さんの預貯金を、長男が勝手に使い込んでいたようだ」といったいわゆる被相続人の預貯金の使い込みのご相談は多くあります。
被相続人が亡くなった後、預金口座を調べてみたら多額の出金がなされていたというような経緯で発覚することが多いようです。
このような場合、どのように取り戻せば良いのでしょうか。
第2 不法行為と不当利得の違い
被相続人の生前に、何者かが被相続人に無断で出金し使い込んでいた場合、被相続人が健在であれば、自らその者に対し、不法行為による損害賠償請求もしくは不当利得返還請求により使い込まれた金銭の返還を求めることができます。
被相続人の死後にこの使い込みが発覚した場合、被相続人が生前に有していたこの請求権を、相続人が法定相続分に応じて相続することになります。
このため、相続人がその者に対して、使い込んだ金銭のうち自分の法定相続分に当たる金額を支払うよう請求することができます。
不法行為による損害賠償請求と不当利得返還請求権はどちらの法律構成でも請求することができます。ただ、これらのいずれの主張するかを選択するにあたり、一番大きな違いは消滅時効です。
不法行為は、当該行為を知ってから3年で時効消滅し、不当利得は、当該行為の日から10年で時効とされています。
なお、民法の改正法により、2020年4月1日以降に使い込まれたケースの場合、不当利得の時効について、上記の10年に加え、当該行為を知ったときから5年という期間が追加され、時効消滅する期間が短くなったことに注意が必要です。
また、もう一つの大きな違いは、弁護士費用を請求できるかという点です。
不法行為の法律構成で主張する場合、訴訟になったときに、弁護士費用として損害の1割程度が認められるのが通例です。
他方、不当利得の構成で請求すると、弁護士費用は認められません。
このため、不法行為を主張したいところですが、多くの場合、時効消滅期間との関係で不当利得構成での主張をせざるを得ないかもしれません。
第3 どのような証拠が必要か
預貯金の使い込みについて相手に返還を求める場合、まずは証拠を集める必要があります。
不法行為であっても不当利得であっても、
①相手方が預貯金を取得したこと
②上記①の取得が被相続人の意思に反していたこと
を証拠により証明する必要があります。
①については、預貯金が不自然に出金されていることを指摘しても、「知らない」「被相続人が自分でおろしたのではないか」などと言い逃れされてしまうことも少なくありません。
相手が出金したことを認める場合も、「被相続人から贈与を受けた」「被相続人に頼まれて費用の支払いに充てた」などと言われることが非常に多いです。
このような言い逃れをさせないために十分に証拠を集める必要があります。
では、どのような証拠を集めればよいでしょうか。
例えば、
①生前の被相続人の預貯金口座の取引履歴
②入出金伝票
③被相続人についての診断書やカルテ(認知症や寝たきりであった等)
④介護認定の調査票等
⑤施設に入所している場合は、施設の利用料金等がわかる明細書など
が証拠となります。
これらの証拠書類から不自然な出金がいつどのような方法で行われたのか等を分析し、被相続人の意思に反して勝手に引き出されたことを主張していきます。
具体的にどのような点に着目して分析していけばよいかは、事案に応じて他の証拠資料と照らし合わせながら検討することになります。
不審な出金があったけれどどうすればよいかわからない、使い込みがあったか調査したいという場合は、是非法律事務所瀬合パートナーズにご相談ください。