遺産相続で嫌がらせをされた場合の対処法
第1 相続財産を使い込まれていた場合
被相続人の財産が、生前に無断で使い込まれていた場合に、被相続人が、使い込んだ者に対して不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)又は不当利得に基づく利得返還請求権(民法703条、704条)を有していたと考えられます。そして、被相続人の死亡により、相続人がその請求権を相続しますので、相続人は、使い込んだ者に対し、相続分に応じて使い込まれた金銭の支払いを求めることができます。
また、相続財産を使い込んだ者が遺産分割の当事者である場合には、遺産分協議や調停の手続きの中で使い込んだ分を考慮して遺産分割をするという方法も考えられます。
もっとも、この方法は遺産分割当事者全員がそれに合意する必要があるため、上手くいかないこともあります。そのような場合は、不法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得に基づく利得返還請求権によって取り戻すしかありません。
第2 遺産分割前に相続財産が勝手に利用されている場合
被相続人の死亡後、遺産分割が成立するまでの間は、相続財産については相続人の共有となります。このため、各相続人は、共有物の全部についてその持分に応じた使用をすることができます(民法249条1項)。
例えば、相続人の一人が勝手に相続財産である土地を利用していても、他の相続人が、土地の明渡しを求めることはできません(最判昭和41年5月19日民集20巻5号947頁)。
このため、このような相続人に対しては、まず持分を超える使用の対価を支払うよう請求することができます(民法249条2項)。
また、共有物の利用方法は、共有者の持分価格の過半数で決定することができ、これは共有物を現に使用する共有者がいる場合にも当てはまります。このため、相続人の一部が勝手に相続財産を利用している場合には、他の相続人の過半数の決定をもって土地の明渡を求めるという方法も考えられます。
第3 遺産分割に相続人が協力しない場合
遺産分割協議は、共同相続人全員が参加する必要があります。相続人の一人が遺産分割協議に協力しなかったからといって、その者を除いて他の物だけで遺産分割協議を成立させることはできません。
そこで、このような場合には、各共同相続人は、相手方の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所に、遺産分割の調停を申し立てることになります(家事法245条第1項)。
調停手続では、当事者双方から事情を聴き、必要に応じて資料等を提出してもらったり、遺産について鑑定を行うなどして事情をよく把握したうえで、各当事者がそれぞれどのような分割方法を希望しているか意向を聴取し、解決案を提示したり、解決のために必要な助言をし、合意を目指し話合いが進められます。
調停手続において、調停委員会が当事者間に合意が成立する見込みがない場合又は成立した合意が相当でないと認める場合には、調停が不成立となります(家事法272条1項)。そして、調停が不成立となった場合は、審判手続に移行し、家庭裁判所の審判により遺産分割が決められることになります。
裁判所ウェブサイトhttps://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_12/index.html