個人事業主の相続問題
第1 個人事業主の相続の場合に必要な届出
個人事業主(自営業者)の相続の場合、まずは以下のような手続が必要となります。
届出の種類 | 届出先 | 期限 |
廃業届 | 税務署 | 1か月以内 |
事業廃止届/死亡届 | 税務署 | 速やかに |
給与支払い事務所等の廃止の届出 | 税務署 | 速やかに |
準確定申告 | 税務署 | 4か月以内 |
1 廃業届を提出する
税務署に個人事業の廃業届を提出することが必要です。相続人が事業を引き継ぐ場合でも必要なことに注意してください。個人事業主が死亡した日から1か月以内に届け出る必要があります。
A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続|国税庁 (nta.go.jp)
2 事業廃止届・死亡届
消費税の課税事業者であった場合は、速やかに税務署に事業廃止届と死亡届を提出する必要があります。
No.6603 個人事業者が事業を廃止した場合|国税庁 (nta.go.jp)
D1-15 個人事業者の死亡届出手続|国税庁 (nta.go.jp)
3 給与支払い事務所等の廃止の届出
従業員を雇用していた場合、税務署に給与支払い事務所等の廃止を届け出なければなりません。
A2-7 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出|国税庁 (nta.go.jp)
4 準確定申告
個人事業主が死亡してから4か月以内に、その年の所得税の準確定申告をしなければなりません。相続税の確定申告が10か月以内であることとの違いに注意してください。
No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)|国税庁 (nta.go.jp)
第2 事業を承継する場合
1 各種の届出
死亡した個人事業主が行っていた事業を相続人が承継する場合、あらためて、①個人事業の開業届、②給与支払い事務所等の開設の届出、③(青色申告をするためには)所得税の青色申告承認申請書を提出する必要があります(相続人が以前から青色申告をしていた場合を除きます)。
2 事業用財産の承継
事業用の財産である死亡した個人事業主が事業に利用していた財産は、事業を承継する相続人(後継者)に集中させる必要があります。事業用の財産には、棚卸資産、機械・工具類、屋号、売掛金や預金などがありますが、これらを他の相続人が相続してしまうと、事業の継続に支障を来すことになります。これらの事業用財産を後継者に承継させるためには、遺言書を作成するなどして後継者がすべて相続できるように対策をしておく必要があります。
また、事業用の財産には、これらのプラスの財産だけでなく、金融機関からの借入金、買掛金、税金などのマイナスの財産も含まれます。これらのマイナスの財産は、事業所得により返済することを予定しているため、これらの負債についても後継者に相続させることになるのが通常かと思われます。
第3 事業承継を円滑に行うために
【円滑な事業承継のための方策の例】 ①遺言書を活用する |
1 遺言書の活用
後継者が決まっている場合、事業用財産はすべて後継者に相続させるような内容の遺言書を作成しておきます。このような遺言書を作成することによって、財産の分割について相続人で協議することなく、後継者に事業用の財産を相続させることができます。
2 生前贈与の活用
事業用の財産を後継者に生前贈与しておくことで、事業用財産をスムーズに後継者に相続させることができます。これにより、事業用の財産が分散されてしまう不都合を回避することができます。
この場合、贈与税が課税されることになるのですが、個人版事業承継税制を活用することで贈与税が猶予・免除される場合があります。
個人版事業承継税制)|国税庁 (nta.go.jp)
3 生命保険の活用
後継者に事業用の財産を集中させた結果、それ以外の相続人に対して遺留分の支払いをする必要が生じることがあります。また、事業用の財産に固定資産が多い場合などは、相続税を納付する原資が不足する場合があります。
このため、生命保険をかけて後継者を受取人と指定しておくことで、遺留分や相続税に充てる資金を後継者に残しておくことも有用でしょう。
4 法人化の検討
最後に根本的な対策として、事業を法人化することによって事業承継をする方法があります。すなわち、事業用の財産を個人の財産から分離し、法人の財産にすることで、事業用財産を引き継がせることが可能となります。
ただ、法人化した場合は、その法人の株式が個人の相続財産となりますので、今度はその株式を後継者に集中させることが必要となります。株式を後継者に集中させるには、遺言書の作成、生前贈与の活用、場合によっては信託を活用することも考えられます。
個人事業主の相続にお悩みの方は、是非一度法律事務所瀬合パートナーズにご相談ください。
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