使途不明金をどのようにして取り戻すか
第1 使途不明金をどのようにして取り戻すか
被相続人の預貯金を、他の相続人が無断で引き出していることが疑われる場合、どのようにして取り戻せば良いのでしょうか。ここでは、被相続人の生前に引き出された場合について説明していきます。
第2 まずは預貯金を調査する
まずは、被相続人名義の預貯金口座の取引履歴を取り寄せるところから始めます。被相続人がどこの金融機関に口座を持っていたかわからない場合は、取引があったと思われる金融機関や、自宅近く等の金融機関に問い合わせ、口座の有無を問い合わせるところから始めます。
各相続人は、単独で被相続人の預貯金の取引履歴の開示を求めることができ(最判平成21.1.22)、相続人であることを示す戸籍謄本などの書類を提出すれば、金融機関も開示に応じてくれることがほとんどです。最大で約10年前からの取引履歴を取り寄せることができることが多いです。取引履歴の取寄せには費用がかかりますので、他の相続人が被相続人の預金を管理し始めた時期以降の取引履歴を取り寄せれば良いでしょう。
第3 取引履歴から使途不明金を推測する
被相続人名義の預金口座の取引履歴を取り寄せたら、その取引履歴の内容を詳細に確認していわゆる使途不明金であるかどうかを推測します。このときは次のような点に着目します。
【着目点①】 ・被相続人が認知症で判断能力がない時期に出金されている ・被相続人が施設に入所中、入院中に出金されている ・被相続人の生活圏外の場所にある店舗で出金されている ・被相続人が通帳・印鑑・キャッシュカードを管理していない時期に出金されている |
【着目点②】 |
1 被相続人が認知症で判断能力がない時期に出金されている
被相続人が認知症などで、判断能力がない時期に預金口座から引き出されている場合は、被相続人に無断で出金された可能性が高いと言えます。この場合、被相続人に判断能力がなかったことを示す証拠を準備しておく必要があります。例えば、診断書、カルテ、介護認定の調査票、入所していた施設の記録などを取り寄せておくことが考えられます。
2 被相続人が施設に入所中・入院中に出金されている
被相続人が施設に入所している時期や、病院に入院している期間中に預金口座から出金されている場合は、被相続人本人が引き出したものではない可能性が高いと考えられます。ただし、被相続人に判断能力がある場合は、被相続人本人が、誰かに委託して出金してもらったという可能性も考えられます。また、入院に必要な物品の購入や入院費用の支払いのために出金がなされたという場合もあります。
3 被相続人の生活圏外の場所にある店舗で出金されている
被相続人が普段の生活では行かないような場所にある店舗で出金されているような場合も、被相続人本人が引き出したものではない可能性が高いと言えます。実際に出金したと思われる相続人等の自宅近くの金融機関の支店で出金されていれば、その人が出金したことを推測することができる場合があります。ただし、この場合も同様に、被相続人に判断能力がある時期の出金であれば、被相続人本人の委託により出金がなされた可能性もあります。
4 被相続人本人が、通帳・印鑑・キャッシュカードを保管していない時期に出金されている
この場合も、被相続人本人が引き出したものではない可能性が高いと言えます。ただし、この場合も、普段から通帳等を預けて生活費等の出金を誰かに任せていたという可能性が考えられます。
5 被相続人の生活状況からして、不相当に高額な出金がなされている
例えば、被相続人が施設に入所しており、その施設の利用料金の中ですべての生活費が賄われていて、利用料金が口座引落しになっているにもかかわらず、預金口座から毎月数十万円の現金が出金されているような場合は、被相続人に無断で引き出された可能性があります。このような場合は、施設の利用料金の請求書や明細書、介護施設の記録などを証拠として準備しておくことが考えられます。
また、例えば、持ち家で独居し、年金生活を送っているにもかかわらず、1000万円以上の定期預金を解約したというような場合も、被相続人に無断で出金された可能性が考えられます。
6 高額な出金が連続している
例えば、被相続人の口座から、数十万円以上のお金が何度も連続して引き出されているような場合も、被相続人に無断で出金された可能性が考えられます。
7 通常の出金パターンとは異なるパターンの出金が始まった
例えば、普段は、2か月に1回年金が支給された後に一定額の出金を繰り返していたのに、ある時期以降から、それとは異なるパターンの出金が始まった場合も、被相続人に無断で出金された可能性があります。
第4 使途不明金として取り戻せる場合とは
取引履歴から使途不明金と思われる預金の引き出しがわかった場合でも、これを取り戻すことができない場合があります。それは次のような場合です。
【取戻しができない場合の例】 ・被相続人本人の委託により引き出しがなされ、引き出されたお金が被相続人に渡された場合 |
第5 使途不明金を取り戻す具体的な方法
1 まずは交渉してみる
取引履歴やその他の資料を検討した結果、使途不明金があると思われ、それが特定の相続人によってなされたと考えられる場合は、まずはその相続人と協議をするところから始めます。
問題となる預金の引き出しを特定し、その使途の説明を求めます。相手が使途を説明し、それに沿う領収書等が提出された場合は、取り戻すことができない場合もあります。
相手が預金を無断で引き出したことを認め、その使途を説明できない場合は返金に応じてくる場合があります。その場合は、合意書を取り交わした上で、相続分に応じた使途不明金相当額のお金を返金してもらいます。
相手が預金の引き出しを認めない場合や、理由もないのに返金に応じない場合は、法的手続に進むことを検討します。
2 遺産分割調停の中で話し合いを試みる
他にも遺産があって遺産分割調停を行っているような場合は、その遺産分割調停の中での解決を試みる方法もあります。使途不明金の問題は、遺産の範囲の問題であるため、厳密に言えば、遺産分割調停の対象外の問題となります。しかしながら、使途不明金の問題について別に訴訟を提起して解決するのも相続人にとって面倒であり、かつ負担が大きいため、相続人全員が遺産分割調停の中で解決することに合意し、使途不明金の金額等についても合意ができれば、調停の中で解決することも可能です。
また、最終的に解決に至らなくても、遺産分割調停の手続の中で、相手方に使途の説明を求めれば、相手方から領収書などの何等かの資料が提出される場合もあります。
3 訴訟を提起して解決する
相手が特に証拠や根拠もないのに「自分が引き出したものではない」「贈与を受けたものである」「被相続人のために全額費消した」等と主張して返金に応じない場合は、最終手段として、訴訟を提起して解決を図ります。訴訟を提起する場合は、自分の主張が認められるための証拠を準備しておく必要があります。訴訟においては、不当利得返還請求(民法703条)または不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)を根拠に請求します。
裁判においては、①被相続人の預金が引き出されて預金債権が消滅したこと、②被告(引き出した相続人等)が引き出した預金を取得していること、④被告に預金の引き出しの権限がないこと等を主張立証します。訴えを提起する場合には、自身で対応することは難しいと思われますので、弁護士に依頼することをおすすめします。
使途不明金問題でお悩みの方は、是非一度法律事務所瀬合パートナーズにご相談ください。
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