親族間で揉めないための遺産分割
1 はじめに
遺産分割は、親族間の対立が先鋭化しやすいデリケートな問題です。特に、被相続人が遺言書を作成していなかった場合や遺産に不動産が含まれる場合には、遺産分割協議が長期化し、感情的な対立が起こりやすくなります。本記事では、円滑に遺産分割を進めるためのポイントを解説します。
2 遺言書がない場合の分割方法
被相続人が生前に遺言書を作成していなかった場合には、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産分割について合意する必要があります。
相続人とその法定相続分は以下のように定められています。
①配偶者:常に相続人となります。
②子ども:配偶者とともに相続人となります。相続人が配偶者と子どもの場合、配偶者が2分の1、子ども全員で残り2分の1を均等に分けることになります。
③直系尊属:子どもがいない場合、配偶者と直系尊属(両親)が相続人となります。相続人が配偶者と直系尊属の場合、配偶者が3分の2、直系尊属が残りの3文の1を均等に分けることになります。
④兄弟姉妹:子どもや直系尊属がいない場合、配偶者と被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。配偶者が4分の3、兄弟姉妹の全員で残りの4分の1を均等に分けることになります。
ただし、遺産分割協議によって、上記と異なる遺産の分け方を合意することもできます。
3 相続人調査の重要性
遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があります。そのため、相続人調査は、相続人を特定するための重要なプロセスです。
もし相続人を見落としたまま遺産分割協議を終えてしまった場合、後になって、当該相続人から異議を申し立てられるおそれがあります。
相続人調査の流れは以下のとおりです。
1. 被相続人の戸籍謄本を出生から死亡まで全て収集する。
2. 相続人全員の戸籍を確認する。
4 遺産分割協議で合意を得るための方法
上述のとおり、被相続人が遺言書を作成していなかった場合、相続人全員で、遺産分割協議を行い、遺産分割の方法について合意しなければなりません。各相続人が納得して遺産分割協議に合意することができるように、柔軟な解決を模索することが重要です。弁護士等の専門家を交えて協議することも有効です。
万が一、相続人間での話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申立て、調停委員に間に入ってもらう形で協議を行うことになります。遺産分割調停でも話し合いがまとまらない場合には、遺産分割審判に進み、裁判所に、適切な遺産分割の内容を決定してもらうことになります。
5 不動産が原因で起こる対立の解決策
不動産は特に、遺産分割協議において、相続人間の対立を招きやすい資産の一つです。不動産の分割の方法には、以下の方法が考えられます。
①換価分割:不動産を売却し、得られた現金を分割します。
②共有分割:不動産を共有名義で取得する方法です。遺産分割後の不動産の管理や売却に共有者の同意が必要である点に注意が必要です。
③代償分割:特定の相続人が不動産を取得して、当該相続人が、他の相続人に代償金を支払う方法です。
6 介護や生前贈与を考慮した公平な遺産分割
被相続人の介護を行った相続人がいる場合や、生前贈与を受けた相続人がいる場合、相続人間の公平性を保つための配慮が必要となる場合があります。
例えば、介護や経済的支援など、被相続人の財産維持・増加に貢献した相続人は、これを「寄与分」として主張することができます。ただし、妥当な「寄与分」の額を設定することは難しく、相続人間の紛争が先鋭化しやすいといえるでしょう。
また、生前贈与を受けた相続人がいる場合、これを考慮しないことは相続人間の公平に欠けるため、生前贈与の額を遺産に加味した上で、遺産分割を行うことになります(特別受益の持ち戻し)。 ただし、被相続人に、特別受益の持ち戻しを免除する意思があったといえる場合には、特別受益の持ち戻しを行わず、遺産分割を行うことになります。
7 まとめ
このように、被相続人が遺言書を作成していなかった場合には、相続人全員で様々な事情を考慮して遺産分割協議を行う必要があり、相続人間でのトラブルが先鋭化しやすいという問題があります。トラブルの発生を未然に防ぐためには、専門知識を持つ弁護士のサポートが効果的です。弁護士は、手続や書類作成の代行、法律に基づく適切な遺産分割方法の提案や各種の助言等が可能です。
親族間の関係を良好に保ちつつ、公平かつ円満な遺産分割を実現するために、ぜひ早期に弁護士にご相談ください。