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【最高裁】相続回復請求の相手方である表見相続人は、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても、当該真正相続人が相続した財産の所有権を時効により取得することができる(最三小令和6年10月26日判決)
(裁判要旨)
相続回復請求の相手方である表見相続人は、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても、当該真正相続人が相続した財産の所有権を時効により取得することができる。
(事案の概要)
被相続人:B(本件不動産を所有)
法定相続人:X(Bの養子)
真正相続人:Y1、A(真正相続人、受遺者)
・H13.4、Bは、Y1・A・Xに遺産を等しく分与するとの自筆証書遺言をした。
・平成16年2月13日にBが死亡。法定相続人は養子であるBのみ。
・Bは遺言の存在を知らず、本件不動産を単独で相続したと過失なく信じ、H16.3に本件不動産について相続登記を行った。
・Bは、H31.2に、Y1とAと遺言執行者に対して、本件不動産のY1とAの各共有持分権につき、取得時効を援用するとの意思表示を行った。
→相続回復請求の相手方である表見相続人(B)は、真正相続人(Y1とA)の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても、当該真正相続人が相続した財産の所有権を時効により取得することができるか?
(結論)
時効取得することができる。
(理由の要旨)
民法884条の相続回復請求権の消滅時効と、民法162条の所有権の取得時効は別個の制度であって、特別法と一般法の関係にはない。相続回復請求権の消滅時効が完成する前の所有権の取得時効を妨げる旨の規定はない。
【最高裁】遺言により相続分がないものと指定された相続人は、遺留分侵害額請求権を行使したとしても、特別寄与料を負担しない(最一小決令和5年10月26日決定)
(裁判要旨)
遺言により相続分がないものと指定された相続人は、遺留分侵害額請求権を行使したとしても、特別寄与料を負担しない。
(事案の概要)
被相続人:A
相続人:B(子)、Y(子)
特別寄与料を請求:X(Bの妻)
・令和2年6月にAが死亡
・Aは全財産を子Bに相続させる遺言をしていた
・YがBに対して遺留分侵害額請求を行った
・Bの妻が、Yに対して特別寄与料を請求した
→この場合、Yは特別寄与料を負担するか?
(結論)
Yは特別寄与料を負担しない。
(理由の要旨)
民法1050条5項の趣旨に照らせば、遺留分侵害額請求権の行使という同項が規定しない事情によって、同項の負担割合が修正されるものではないというべき。
(コメント)
特別寄与料(民法1050条)は、平成30年の民法改正により新しく認められた制度で、相続人以外の親族が、被相続人に対して無償で療養看護(介護など)をしたこと等によって被相続人の財産が維持増加された場合、その親族が相続人に対して寄与に応じた特別寄与料の支払いを請求できる制度です。
そして、相続人が複数人いる場合、各相続人は、法定相続分の割合(遺言によって相続分の指定がされているときは指定相続分の割合)によって、特別寄与料を負担することになります(民法1050条5項)。このとき、特別受益や寄与分などを考慮した具体的相続分の割合により負担するのではなく、法定相続分等などの割合により負担割合が決まるとされたのは、特別寄与料をめぐる紛争の複雑化・長期化を防止するために、明確な基準である法定相続分等を使うべきと考えられたためです。
本件において、Yの遺留分額を考慮して特別寄与料の負担割合を決めるとなると、まずはYの遺留分額を確定する必要がありますが、Yの遺留分額を確定するには相当の時間がかかります。そうなると、特別寄与料に関する紛争を早期に解決することが難しくなります。
このため、本件においては、遺言書で定められた相続分に従いYが特別寄与料を負担することになりますが、遺言書においてYの相続分がないと指定されていましたので、Yは特別寄与料を負担しないことになります。
(裁判全文)
092453_hanrei.pdf (courts.go.jp)