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特別寄与料を請求したい

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第1 特別寄与料とは

 特別寄与料とは、相続人ではない被相続人の親族被相続人の療養看護等の貢献を行った場合に、このような貢献をした親族が、その貢献に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払を相続人に請求することができるという制度です(民法1050条)。
 特別寄与料の支払は、まずは当事者間の協議により決めることになりますが、当事者間に協議が調わないとき又は協議をすることができないときは、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができます。
 特別寄与料が認められるための要件は、以下のとおりになります。

【特別寄与料が認められるための要件】

⑴ 被相続人の親族であって、相続人でないこと
⑵ 無償で療養看護その他の労務の提供をしたこと
⑶ 被相続人の財産の維持又は増加があったこと
⑷ 療養看護等と財産の維持又は増加に因果関係があること
⑸ 特別の寄与があったこと

第2 寄与分との違い

1 寄与分は相続人が対象

 相続人が被相続人に対して療養看護等の貢献をした場合、相続財産から分配を受けられる制度として、寄与分の制度があります。寄与分の制度は相続人のみに認められています
 これに対し、特別寄与料は、「相続人ではない」被相続人の「親族」(六親等以内の血族、配偶者、三親等以内の姻族・民法725条)に認められます。 

【親族の範囲の例】

 ・一親等・・・父母、子ども
 ・二親等・・・祖父母、孫、兄妹姉妹
 ・三親等・・・叔父叔母、甥姪、曾祖父母
 ・四親等・・・いとこ、祖父母の兄妹姉妹

 特別寄与料が請求できるのは、例えば、①配偶者の父母・配偶者の祖父母・配偶者の兄弟姉妹の療養看護を行った人、②いとこの療養看護を行った人で相続人でない人、③叔父叔母の療養看護を行った人で相続人でない人などになります。なお、いわゆる内縁の配偶者や、同性パートナー等は、特別寄与料を請求することはできません。

 例えば、妻が、夫の父の介護を行い、被相続人の財産の維持又は増加に貢献した場合、妻は、夫の父の相続人でないことから妻の寄与分というものは認められません。このため、これまで実務では、妻を夫の履行補助者として、夫の寄与分の中で妻の寄与行為を考慮することで解決を図ってきました。しかしながら、このようにしても、夫が父よりも先に死亡した場合には、相続人である夫がいないので妻の寄与行為を考慮することができませんでした。
 このため、このような場合にも、妻に一定の財産を分け与えることが被相続人の推定的意思に合致する場合も多いとして、特別寄与料の制度が設けられました。

2 特別寄与料の「特別の寄与」は高度の貢献までは不要

 寄与分における「特別の寄与」寄与の程度が被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待される程度の貢献を超える高度なものであることが必要であるとされています。
 これに対し、特別寄与料における「特別の寄与」は、「その者の貢献に報いるのが相当と認められる程度の顕著な貢献があったこと」を意味するとされています。つまり、寄与分が認められる「特別の寄与」よりも程度が低いもので足りると考えられます。
 これは、特別寄与料を請求する人が、相続人ではなく、被相続人に対して民法上の扶養義務等を負わない人も含まれていることが理由になっています。

3 特別寄与料には短期の期間制限がある

 特別寄与料の請求は、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知ったときから6か月以内又は相続開始時から1年以内にしなければなりません(除斥期間、民法1050条2項)。最長でも相続開始時から1年となります。当事者間での協議がまとまらず、やむなく家庭裁判所に対して調停や審判を申し立てる場合も、この期間内に行わなければなりません。
 これに対し、寄与分を定める調停の申立ては、相続開始から遺産分割の終了までいつでも申し立てることができます。また、令和5年4月1日からは、原則として相続開始のときから10年を経過した後は寄与分の主張ができなくなりましたが、それでも相続開始(死亡時)から10年以内であれば寄与分の主張をすることができます。
 このように特別寄与料を請求することができる期限は、寄与分に比べて非常に短くなっています
 これは、相続人が、特別寄与料の支払義務や支払金額を把握しないと、遺産分割を躊躇すると思われることから、遺産をめぐる紛争の早期解決のため、請求できる期間が短くされているのです。

4 遺産分割事件との関係

 特別寄与料の請求は、遺産分割調停が家庭裁判所に係属していなくても、単独家庭裁判所に特別寄与料の額を定めることを請求することができます
 これに対し、寄与分を家庭裁判所に決めてもらう場合は、家庭裁判所で遺産分割調停が係属していることが必要です(民法904条の2第4項)。

5 管轄の家庭裁判所が異なる

 特別寄与料請求事件の管轄は、請求の相手方である相続人の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所です。相手方が複数いる場合は、そのうちの一人の住所地を管轄する家庭裁判所となります。
 これに対し、寄与分を定める調停の申立ては、上述のとおり遺産分割調停が係属していることが前提になりますので、遺産分割調停が係属している家庭裁判所に申立てることになります。なお、遺産分割調停は、相手方となる相続人の誰か一人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
 例えば、遺産分割調停が、相手方となる相続人Aの住所地で係属している場合、寄与分を定める調停の申立ても、同じAの住所地の裁判所に申し立てることになります。これに対し、特別寄与料については、遺産分割調停がAの住所地の裁判所に係属していても、独立して申し立てることが可能なので、例えば、相続人Bの住所地を管轄する裁判所に申立てを行うことも可能です。
 遺産分割調停が係属している裁判所に対して、特別寄与料の請求を行った場合、遺産分割調停と一緒の手続で進められるかについては、裁判所の裁量により判断されることになります。


第3 特別寄与料が認められる寄与行為

 特別寄与料が認められるためには、「無償で療養看護その他の労務の提供をしたこと」が必要となります(民法1050条1項)。療養看護などの「労務の提供」に限定されています。
 このため、寄与分とは異なり、例えば、被相続人に対して毎月生活費を援助していたなど財産的な給付があっても、特別寄与料は認められません。
 また、「無償」であることが必要であるため、例えば、義父の療養看護に努めていたがその対価としてお金を受け取っていたような場合は、特別寄与料は認められないことになります。

第4 特別寄与料の額の算定方法

 家庭裁判所では、寄与の時期方法及び程度相続財産の額その他一切の事情を考慮して特別寄与料の額を定めることになります(民法1050条3項)。

1 療養看護型の場合

 被相続人が「要介護度2」以上の状態にある場合の介護報酬が一つの目安になります。実務においては、相続人は、看護や介護の専門家ではないこと等の事情を考慮し、裁量割合として、介護報酬の0.5から0.8程度の間で適宜修正されており、0.7あたりを平均的な数値として、前記裁量割合を乗じて減額しています。

(例)療養看護型の寄与分=介護報酬相当額×療養看護の日数×裁量割合(0.5~0.8)

2 家事従事型の場合

 特別寄与者の提供した労務の内容によりますが、①特別寄与者が得られたであろう給付額から被相続人から受けていた生活費相当額を控除し、それに特別の寄与の期間を乗じることによって算出する方法と、②相続財産の形成に実際に貢献したと思われる比率をもって評価する方法が考えられます。

第5 誰に対して請求するか

 特別寄与料は、「相続人」に対して請求することができますが(民法1050条1項)、相続人が複数人いる場合は、誰に対して請求すれば良いでしょうか。
 これについては、必ずしも相続人全員に請求する必要はなく、特別寄与料を請求する人が選択して相続人の一人または数人(一部で良い)に請求すれば良いことになっています。これは、必ず相続人の全員に対して請求しなければならないとすると、特別寄与者が権利を行使することが困難になるという不都合が生じるためです。
 各相続人は、特別寄与料の額にその相続人の相続分を乗じた額を負担することとされています。

第6 特別寄与者に対する相続税

 特別寄与料に対しては、相続税が課税されます。特別寄与料は、被相続人の死亡と密接な関係を有し、経済的には遺産の取得に近い性質があるため、一連の相続の中で課税関係を処理することが適当であるためです。また、被相続人が相続人以外の者に対して財産を遺贈した場合における課税とのバランスをとる必要があることから、相続人からの特別寄与料の取得は、被相続人からの特別寄与者に対する遺贈とみなされています。
 なお、特別寄与者は相続人ではないため、受遺者(相続人を除く)と変わりはなく、遺贈とのバランスか相続税の2割加算の対象となります。
 他方、特別寄与料を支払った相続人については、課税される額は、相続又は遺贈により取得した財産から特別寄与料の額のうちその相続人が負担すべき金額を控除した金額とされます。

 

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