内縁の妻に相続権はある?
第1 内縁とは
内縁関係とは、婚姻届を提出していないものの、夫婦同然の生活をしている関係のことをいいます。事実婚も同じ意味です。婚姻により姓を変えたくない、キャリアを築くために法律婚をしたくない、婚姻制度に縛られたくない等の理由から、あえて事実婚を選択するカップルも増えています。内縁関係にある夫婦は、法律上は他人であり、法律上の親族関係も生じません。
第2 内縁の妻に相続権はない
内縁の妻には相続権はありません。法定相続人となるのは「配偶者、子、直系尊属(親など)、兄弟姉妹」です(民法887条、889条、890条参照)。ここでいう配偶者は、法律上の配偶者でなければならず、内縁の配偶者は含まれません。
したがって、内縁の妻は、内縁の夫が亡くなっても相続人とはならず、遺産分割協議に参加することさえできません。
第3 内縁の妻に遺産を渡す方法
では、内縁の妻に遺産を渡す方法はないのでしょうか。以下では、その代表的な4つの方法をご紹介します。
1 遺言書を作成する
内縁の夫が遺言書を書いておけば、遺産を内縁の妻に相続させることができます。遺言書によって相続させることを「遺贈」といいます。
自分で手書きで遺言書を作成することももちろん可能です(自筆証書遺言)。ただ、自筆証書遺言については、遺言書が有効と認められるための要件が法律で厳格に決まっていますので注意が必要です。
「すべての遺産を内縁の妻に相続させる」という内容の遺言を書くことも可能ですが、遺留分との関係で注意が必要となります。法定相続人のうち配偶者、子、直系尊属(親など)には、法律で最低限保障された取り分があります。これを遺留分といいます。
このため「すべての遺産を内縁の妻に相続させる」という遺言を作成しても、後日、遺留分権利者から、遺留分の支払いを求められる可能性があります。このトラブルを避けるためには、予め法定相続人の遺留分を侵害しない内容の遺言書にしておくなどの工夫が必要となります。
遺贈の場合、相続税の対象となりますが、内縁の妻は、法定相続人でない者ため、相続税額は通常の2割増しになります。
2 生前贈与・死因贈与の契約をする
内縁の夫婦間で、贈与契約を締結するという方法もあります。先ほどの遺言と似ていますが、遺言は遺言者が一人で行うものですが、この「贈与」は2人の間で「契約」をするという点で遺言と違います。生きている間に贈与の効果が生じるのが「生前贈与」、亡くなった時に贈与の効力が生じることを「死因贈与」といいます。
贈与契約は口頭でも成立しますが、後にトラブルになることを防ぐために贈与契約書を作成しておくのが望ましいでしょう。
生前贈与の場合は、贈与税がかかる場合があります。これに対し、死因贈与には相続税がかかりますが、上述のとおり内縁の妻の場合は、相続税額が通常の2割増しになります。
3 生命保険を活用する
生命保険を活用する方法もあります。生命保険の被保険者を内縁の夫、受取人を内縁の妻にしておくことで、内縁の妻に財産を残すことができます。ただし、普通の遺産を相続した場合と同じように、相続税がかかりますので注意してください。
生命保険金の受取人を内縁の妻にした場合、その保険金請求権は、内縁の妻の固有の権利となります。このため、原則として、法定相続人から遺留分を請求されることはありません。
4 特別縁故者として遺産を受け取る
内縁の夫・妻に法定相続人が誰もいない場合、内縁の妻が「特別縁故者」として内縁の夫の遺産を受け取ることができる場合があります(民法958条の2)。特別縁故者として遺産を受け取るためには、まずは家庭裁判所に対して相続財産清算人の選任を求める必要があります。
なお、特別縁故者として認められても、遺産全額を受け取れるという訳ではなく、家庭裁判所が決めた金額を受け取ることができることになります。また、この「特別縁故者」として認められるのは、内縁の夫・妻に法定相続人がいない場合に限られます。このため、特別縁故者は最後の手段と位置付け、まずは遺言、贈与、生命保険の活用などの生前対策をしておくのが望ましいでしょう。
なお、近時の家族法改正により「特別寄与料」(民法1050条)という制度が認められるようになりましたが、この特別寄与料が認められるのは、被相続人の親族に限られますので、内縁の妻には「特別寄与料」は認められません。
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