特別縁故者とは~法定相続人でない方が遺産を取得するための方法~
第1 特別縁故者の制度とは
民法上、内縁の夫(妻)は、法定相続人になることができません。そのため、ある一方が、遺言書を作成せずに亡くなってしまった場合、残されたパートナーは、原則としてその遺産を相続することができません。しかし、上記場合でも、「特別縁故者」という制度を利用すれば、遺産を受け取れる可能性があります。
「特別縁故者」とは、被相続人に法定相続人がいない場合に、被相続人と生前に特別な関わりや結びつきを有していたことを理由に、遺産の全部又は一部を取得できる者のことをいいます。
ただし、単に被相続人と生前仲が良かったからといって、誰でも特別縁故者になれるわけではなく、裁判所に申立てを行い、自分が特別縁故者に該当することを認めてもらう必要があります。
今回は、特別縁故者になるための要件や手続の流れについて解説いたします。
第2 特別縁故者になるには
では、どのような要件を満たせば特別縁故者として認めてもらえるのでしょうか。
この点について、民法958条の2第1項は、特別縁故者について、以下のように定めています。
「…相当と認めるときは、家庭裁判所は、①相続人と生計を同じくしていた者、➁被相続人の療養看護に努めた者、➂その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、…相続財産の全部又は一部を与えることができる。」
1 被相続人と生計を同じくしていた者
内縁関係にあるパートナーや事実上の養子などが典型例として挙げられます。これら以外にも、被相続人と同居して生活費を共有していたような場合には、特別縁故者に該当する可能性があるでしょう。
2 被相続人の療養看護に努めた者
文字通り、被相続人を介護していた者が該当します。被相続人と何ら親族関係になくとも、近所に住んでいて、食事や掃除、洗濯などの家事を献身的に手伝っていたという事情がある場合には、そのような近隣住民も特別縁故者に該当する可能性があります。
他方、家政婦や看護師など、報酬を得て介護・看護等を行う者については、基本的には特別縁故者には該当しません。
3 その他被相続人と特別の縁故があった者
①や②と同程度に被相続人と密接な関係にあった者が該当します。具体例としては、被相続人の財産を管理していた者、被相続人に長年にわたって金銭援助をしてきた者などが挙げられます。
ただ、その判断はケースバイケースであり、申立てする者としては、被相続人と密接な関係にあったこと、自分に遺産を相続させることが被相続人の意思に合致することを、具体的な事情をもとに裁判所に訴えかける必要があります。
4 その他の要件
特別縁故者として遺産を受け取れるのは、あくまでも遺産を相続する者が誰もいない場合に限られます。そのため、法定相続人が存在する場合や、遺言書で全財産を受け取る者が決まっている場合には、特別縁故者として認められることはありません。
第3 手続
特別縁故者として認めてもらうためには、以下のステップを踏む必要があります。
1 相続財産清算人選任の申立て
特別縁故者になりたい場合には、まず相続財産清算人を選任するよう家庭裁判所に申し立てる必要があります。
相続財産清算人とは、相続人に代わって被相続人の財産を管理し、債権者に債務を弁済したり、受遺者に対して財産を渡したりする人のことをいいます。
2 相続人の捜索
相続財産清算人が選任されると、次は家庭裁判所によって相続人の捜索が行われます。
具体的には、相続財産清算人が選任されたこと及び相続人であるならばその旨権利主張すべきことが官報に公告されます。公告期間は最低でも6カ月設けられます。
そして、公告期間内に相続人が現れなかった場合、相続人が不存在であることが確定します。一方、公告期間内に相続人が現れた場合には、その者が遺産を相続することになるため、特別縁故者に対する遺産の分与は行われません。
3 債権者や受遺者に対する弁済
相続財産清算人は、⑵の公告と併せて、債権者や受遺者に対して請求の申出をするよう公告することになります。
そして、実際に請求の申出があった場合には、彼らに対し弁済をして、債務を清算します。
4 特別縁故者に対する相続財産分与の申立て
⑵の公告によって、相続人が不存在であることが確定した場合、特別縁故者になりたい人は、確定後3カ月以内に相続財産分与の申立てを行う必要があります。
審理の結果、特別縁故者として認められれば、その関係の深さに応じて、遺産の全部又は一部を受け取ることができます。これまで当事務所が扱ったケースでは、遺産の全部ではなく、一部について認められるケースが多かった印象です。
5 残余財産の国庫帰属
⑷までの手続で被相続人の財産が残った場合には、全て国庫に帰属することになります。
第3 終わりに
今回は、相続人でない場合でも遺産を受け取れる方法についてご紹介しました。
本記事を見て、自分も特別縁故者に当たるのではないかと感じた方は、相続分野に詳しい弁護士に一度ご相談いただくことをおすすめします。