配偶者居住権について
第1 配偶者長期居住権
1 配偶者居住権とは
旧民法では、配偶者が引き続き住居に居住するためには、配偶者が所有権を取得するか別途賃貸借契約を所有者との間で締結するかということをしなければならず、ハードルが高いものとなっています。
そのため、相続法改正で、配偶者居住権制度が認められるようになりました。配偶者居住権の制度は、配偶者に居住建物の使用のみを無償で認め、収益権限や処分権限のない権利を創設(建物の財産的価値を居住権とその残余部分に分けて考える)しました。その結果遺産分割の際に、配偶者が居住建物の所有権を取得する場合よりも低い価額で居住権(終身・無償の居住権)を確保できるようになりました。
2 長期居住権が認められるための要件
【長期居住権が認められるための要件】
①被相続人の財産に属した建物に |
これら①から③の要件が満たされた上で、
①遺産分割協議、②被相続人からの遺贈、③死因贈与契約、④家庭裁判所の審判
のいずれかの手続により、配偶者居住権を取得することになります(民法1028条、1029条)。
3 配偶者居住権が認められる期間
配偶者居住権が認められる期間は、配偶者の終身の間または期間を定めた場合にはその期間となります。
4 事実婚の配偶者には認められない
配偶者居住権の制度は、事実婚の配偶者には認められていません。
5 配偶者居住権の登記
居住建物の所有者は、配偶者居住権を取得した配偶者に対して、配偶者居住権の設定登記をなすべき義務を負います。この設定登記を行うことにより、第三者が居住建物を取得した場合でも対抗でき、妨害する者に対しては、妨害排除請求をすることができます。
6 善管注意義務を負う
配偶者居住権が成立した場合、配偶者は何でもしてよいわけではありません。善管注意義務という義務を所有者に対して負っており、従前の用法に従い善良な管理者の注意をもって居住建物を使用しなければなりません(新法1032条1項)。その他、配偶者居住権を譲渡したり、無断で居住建物を増改築したり、転貸することができなくなっています(新法1032条2項、3項)。また、配偶者は、建物の破損の修補費用と言った通常の必要費を負担しなければなりません。
第2 配偶者短期居住権
1 配偶者短期居住制度とは
配偶者居住権制度につきまして、配偶者短期居住制度というものがあります。
短期居住権制度は、被相続人が所有する建物に配偶者が無償で居住している状態で、被相続人が死亡した場合に、遺産分割成立時まで等の期間中(最低でも6か月)、配偶者が従前の居住を無償で続けられるという制度です(新法1037条)。
配偶者短期居住権制度が設けられた理由は、急な引越しが困難と思われる高齢配偶者を念頭に、配偶者の当面の居住状態を保護するためです。
配偶者短期居住権が認められるための要件は、以下のとおりです。
【短期居住権が認められるための要件】
①被相続人所有の建物に |
2 配偶者短期居住権の存続期間
配偶者短期居住権の存続期間は、居住建物につき配偶者を含む共同相続人の間で遺産分割をすべき場合は、遺産分割時まで(ただし相続開始から6カ月間は存続)、それ以外の場合は、居住建物取得者による消滅の申し入れから6カ月後までとなります。
3 配偶者短期居住権が成立しない場合
配偶者が民法891条に記載されている相続人の欠格事由に該当する場合や、廃除(民法892条)により相続権を失った場合には、配偶者短期居住権は成立しないことになります(新法1037条1項柱書ただし書)。
4 配偶者短期居住権の登記について
短期配偶者居住権には、上記長期配偶者居住権と異なり、設定登記が認められていません。
第3 配偶者居住権の施行日
配偶者居住権の制度は、2020年4月1日から施行されています。配偶者居住権の制度は、施行日後に開始した相続について適用され、施行日前に開始した相続については、適用されません。
配偶者居住権等についてお悩みの方は、是非一度法律事務所瀬合パートナーズにご相談ください。