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遺産分割前に遺産が処分された場合の遺産の範囲

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第1 遺産分割前に遺産が処分された場合の遺産の範囲(民法906条の2)

 遺産分割前に、本来遺産に属するはずの財産が処分された場合は、相続人全員の同意により、処分された財産が、遺産分割のときに遺産として存在するものとみなすことができます(民法906条の2第1項)。このとき、その財産を処分したのが相続人であった場合は、その財産を処分した相続人の同意を得ることは必要ありません(同条第2項)。
 これは近時の民法改正によって新しく設けられた条文であり、令和元年7月1日から施行されています。

第2 遺産分割の対象となる場合

1 現に存在する財産しか遺産分割の対象とはならない

 例えば、父が死亡し、死亡時に遺産である預金が1000万円あったが、死亡直後に、相続人Aがそこから100万円を引き出し、遺産が900万円になった場合で考えたいと思います(相続人は子ども2名で、相続人AとB)。
 実務では、遺産分割は、遺産分割のときに「現に存在する」財産を分ける運用がなされています。このため、上記の例でいえば、原則として、現に残っている遺産である900万円が遺産分割の対象となることになります。

2 相続人全員の「合意」があれば遺産分割の対象とすることができる

 ただ、遺産分割のときに存在せず、遺産分割の対象とはならない財産であっても、「相続人の全員の合意」があれば、例外的にこれを遺産分割の対象とするのが従前からの実務の取扱いです。
 このため、上記の例で言えば、相続人全員(AとB)が、すでに出金された100万円を遺産分割の対象とすることに合意すれば、100万円を含めた1000万円を遺産分割の対象とすることができます。しかし、100万円を引き出したのは相続人Aなので、引き出した張本人である相続人Aがこのような「合意」をするとは考えられません。

 上記の例で言えば、相続人Aは、100万円を遺産分割の対象とするという「合意」をしないと思われます。そうすると遺産分割の対象は、現在残っている900万円となり、相続人AとBは、遺産分割でそれぞれ450万円ずつを取得することになります。
 この場合、相続人Bとしては、相続人Aに対して遺産分割とは別に、引き出された100万円のうち法定相続分に当たる50万円の返還を求めることができます。ですが、相続人BがAに請求したとしても、「葬儀費用などで使った」と主張されて支払いを拒絶されることも珍しくありません。支払いを拒絶されると、場合によっては裁判を起こして請求しなければならないのですが、裁判を起こすこと自体が面倒であり、裁判を起こしたとしても、回収できるか不透明な場合も多々あります。このため、引き出された100万円の返還を求めることは実際にはハードルが高い場合が多く、回収を諦めてしまうこともあるかもしれません。

 引き出された100万円を遺産分割の対象に含めることができれば、相続人Bは、遺産分割において、1000万円の2分の1である500万円を取得することができます。一方で、含めることができなければ、450万円しか取得できません。このため、引き出された100万円を遺産分割の対象に含めるかどうかで相続の結果が変わることになります。

第3 民法906条の2

 このような問題もあり、民法906条の2の規定が新設されることになりました。民法906条の2は、相続人全員の同意があれば、すでに処分された財産を遺産分割の対象に含めることができるという従来の運用を維持しながら(民法906条の2第1項)、その処分をした相続人の同意は不要とされました(同条第2項)。
 このため、上記の例で言えば、100万円を引き出した相続人Aの「同意」は不要となります。このため、相続人Bが、引き出された100万円を遺産分割の対象とすることに同意すれば、100万円を含めた1000万円を遺産分割の対象とすることが可能となります。そうなれば、相続人Bは、遺産分割において、1000万円の2分の1に当たる500万円を取得することが可能となります。
 なお、ここでいう財産の「処分」には、預金の払戻しなどの他、物理的に滅失・毀損することも含まれます。
 遺産分割前に遺産が処分されたことでお悩みの方は、是非一度、法律事務所瀬合パートナーズにご相談ください。

 

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