親の生活費に使うことは預金の使い込みになるか?
第1 はじめに
親の介護や生活を支えることになったとき、介護費や生活費を捻出するために、親の預金からお金を引き出す場面は少なからず見られます。
他方で、親が亡くなった後に親の預金を確認すると、過去に親の預金口座からお金の引き出しがあることが発覚した場合、それが特定の相続人による預金の使い込みであるとしてトラブルになってしまうケースもまた少なからず見られます。
以下、親の預金使用が使い込みとされるのか、引き出しの際にどのような注意点があるかについて、考えていきます。
第2 生活費として認められる範囲
預金を引き出して親の生活費のために費消すれば、いわゆる預金の使い込みとはならず、使用した金銭の返還などを求められることはありません。
例えば、以下のような支出であれば基本的には正当な引き出しといえます。
・ 親が居住する家の家賃や光熱費
・ 親の食費、被服費、日用品の購入など
・ 親の介護サービスの利用料や福祉用具の購入
・ 親の医療費、入通院費
第3 使い込みを疑われないためにできるこ
介護サービスの利用料など、明らかに親のための費用であると分かるものであれば、預金の使い込みであると疑われることはないでしょう。
しかしながら、使途が明確になっていない預金の引き出しは、預金の使い込みではないかと疑われやすいです。
例えば、親が施設に入院している中で、生活費のほぼ全てが含まれる施設利用料が引き落とされているにもかかわらず、それとは別に毎月多額の預金の出金があるような場合には、預金の使い込みを疑われてしまいます。
そのため、以下の点に注意することが望ましいです。
親の同意を得たことの記録を残す
預金の引き出しを行うにあたり、預金の名義人である親がそれに同意していれば、その出金行為は特に問題がありません。このため、親の同意を得て預金を引き出したのであれば、そのことを記録に残しておくことが必要です。
記録を残す場合は、詳細なメモを残す、録音を残す、親に書面を書いてもらうなどの方法が考えられます。メモを残す場合は、何月何日にどこで、どのような理由・必要性で預金を出金するのか、そのときの親の健康状態はどうだったか等、できる限り詳細なメモを残す方が良いでしょう。
なお、親の同意を得る場合は、親に十分な判断能力があることが前提となります。このため、例えば、親が認知症で預金の管理ができないような場合には、形だけ親の同意を得たとしても、その同意は法的には無効となる可能性が高いでしょう。
領収書などの保管
また、親の名義の口座から出金したお金を、親の生活費等のために費消したことを証明するために、レシート、領収書等を必ず保管しておくことが必要です。
第4 使い込みを指摘されたら
親の死後に、他の相続人から使い込みを疑われた場合は、感情的にならず落ち着いて対応することが大切です。親の預金口座から出金したお金を親の生活費などに使ったということであれば、領収書のコピーを相手に渡すなどして親のために預金を使ったことを説明し、まずは相手に理解してもらうことが大切です。
相手に理解してもらえない場合は、相手から裁判を起こされて返還を求められることもあります。裁判を起こされた場合、裁判でも領収書のコピー等を提出して使途を説明する必要があります。裁判になれば、いずれにしろ領収書のコピー等を相手に見せて使途を説明する必要がありますので、裁判を起こされる前の話し合いの段階できちんと使途を説明しておくことが問題の早期解決につながります。
第5 事前の対策
親の預金を代わりに出金しなければならないような状況になっている場合は、そもそもその親の判断能力が低下している場合が少なくありません。
親が認知症等で判断能力が低下しているときに、親の預金を出金すると、その出金が明確に親の生活費として使われているような場合でもない限り、その出金は預金の使い込みであるとして不法行為や不当利得であると相手に主張される可能性が高いです。
このため、例えば、親に判断能力があるうちに財産管理契約を締結しておく、信託契約をしておく、任意後見契約を締結しておくなどの事前の対策も非常に有効です。また、すでに判断能力がないと思われる場合は、成年後見の申立てを検討することも必要となります。
親の財産の管理についてお悩みの方は、是非一度法律事務所瀬合パートナーズにご相談ください。
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