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富裕層の方向け遺留分侵害額請求

1.富裕層で遺留分侵害額請求が起こりやすい背景

 遺留分侵害額請求とは、遺言や生前贈与により遺留分(法定相続人に最低限保障される相続分)が侵害された場合に、遺留分を侵害した者に対して、自らの遺留分を請求することをいいます。
 富裕層のご家庭であればあるほど、資産規模が大きく、不動産や非公開株式など、現金以外の相続財産が多い傾向にあるため、これらの評価や分配方法をめぐる争いが複雑化しやすいといえます。また、事業承継を目的とした生前贈与が行われるケースも多くあるため、これらを遺留分に含めた遺留分侵害額請求が起こりやすいといえます。本記事では、実際に遺留分侵害額請求を受けた場合にとるべき対応についてご説明します。

2.不動産、非公開株式など生前贈与された高額財産に対して遺留分侵害額請求をされたら?

 不動産や非公開株式は、評価方法によって金額が大きく変わるため、適切な評価額を調査しなければなりません。また、不動産や非公開株式の評価の基準時は、相続開始時点(民法1044条2項、904条)とされているため、相続開始時点での評価額を算定し、相手の主張する遺留分侵害額が正当な金額であるかを確認する必要があります。

3.不動産や株式など、現金以外の財産の生前贈与はどう判断されますか?

(1)不動産の評価方法について

 不動産の評価方法としては、土地の場合、公示価格、路線価、固定資産税評価額、不動産業者の簡易査定など、様々な方法があります。これらの評価方法は、当事者同士で合意できるのであれば、いずれの方法によって算定しても良いことになります。

(2)非公開株式の評価方法

 中小企業や同族会社の非公開株式については、取引相場が存在しないため、評価方法に争いが生じやすいといえます。
 評価方法としては、会社法上の株式買取請求における価格の算定方法(純資産価格方式、収益還元方式、類似業種比準方式、混合方式)により評価する方法や、相続税の算定における方式(財産評価基本通達)により評価する方法があります。

4.生前贈与があったとき遺留分侵害額請求をされたらすべきこと

(1)相手に遺留分侵害額請求の権利があるのか確認

 遺留分侵害額請求を行うことができるのは、被相続人の配偶者、子、直系尊属に限られており(民法1042条1項)、兄弟姉妹には権利がありません。また、相続欠格者、被廃除者、相続放棄者のような相続権を失った者にも遺留分が認められないため、そもそも、相手は、遺留分侵害額請求の権利者であるか否かを確認する必要があります
 また、遺留分侵害額請求は、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年」以内に権利行使をする必要があり(民法1048条)、権利行使の方法としては、配達証明付内容証明郵便を送付する方法により行うことが一般的です。上記の消滅時効期間を経過した後で、遺留分侵害額請求を受けた場合には、そもそも相手からの請求に応じる必要はありません。

(2)生前贈与が遺留分侵害額請求の対象になるのか確認

① 相続人以外の者になされた贈与
 原則として、相続開始前1年間にしたものに限って、その価額を遺留分算定の基礎財産に算入されます(民法1044条1項前段)。例外的に、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知って贈与した場合には、相続開始1年以上前の生前贈与についても算入されます(同項後段)。
② 相続人に対する贈与について
 原則として、相続開始前10年間にしたもので、かつ、特別受益(婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として受けた贈与)に該当するものが遺留分侵害額請求の対象となります(民法1044条3項)。①の場合と同様に、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知って贈与した場合には、相続開始10年以上前の生前贈与についても算入されます。

(3)遺留分侵害額請求の額が適切か確認

遺留分侵害額は、以下の手順によって算定されます。

①遺留分算定の基礎となる財産の価格
 遺留分算定の基礎となる財産の価額は、
(被相続人が相続開始時において有した財産の価額)+(被相続人の贈与財産の価額)ー(被相続人の債務の全額)によって算出されます。
 上記のとおり、贈与財産の価額については、相続開始前1年以内のものであるかや、相続開始前10年以内かつ特別受益に該当するか等を確認する必要があります。
② 個別的遺留分の割合
 遺留分の割合は、直系尊属のみが法定相続人の場合は3分の1(民法1042条1号)、それ以外の場合は2分の1(同条2号)と定められており、「遺留分権利者の法定相続割合×上記割合=個別の遺留分割合」となります。具体的には、子供2人が相続人となる場合には、2分の1×2分の1=4分の1が個別的遺留分の割合となります。
③ 遺留分額の算定
 遺留分額は、「遺留分算定の基礎となる財産(①)×遺留分割合(②)」によって求められます。
④ 遺留分侵害額の算定
 遺留分侵害額は、
(遺留分額(③))―(遺留分権利者が受けた遺贈または特別受益の額)―(遺留分権利者が相続によって取得する財産の額)+(民法899条により遺留分権利者が承継する相続債務の額)によって算出されます。
 「遺留分権利者が受けた遺贈または特別受益の額」については、遺留分算定の基礎となる財産の価額(①)を算出する場合と異なり、相続開始前10年以内になされたものに限りません。また、「遺留分権利者が相続によって取得する財産の額」は寄与分を含まない具体的相続分となります。

(4)金銭以外の財産の評価が適正かを確認

 不動産、非公開株式だけでなく、投資信託、社債、国際、ゴルフ会員権などの財産が考えられますが、上記のとおり、適切な評価額によって算定する必要があります。

(5)相手が生前贈与を受けていないかを確認

 遺留分侵害額請求を行った相手方が、被相続人から生前贈与を受けている場合、上記のとおり、遺留分侵害額から控除する必要があります。
 生前贈与を受けているか否かを調査する方法としては、被相続人名義の預金口座の取引履歴を取得し、相手名義の預金口座への送金の有無、多額の出金の有無を確認することが考えられます。

(6)まずは弁護士にご相談ください

 富裕層のご家庭の場合、現金以外の相続財産(不動産や非公開株式など)の評価額が争いとなりやすく、遺留分の算定も煩雑になることが多いです。そのため、当事者同士の話し合いにより、遺留分侵害額の合意ができず、調停や訴訟に移行して紛争が長期化するケースが非常に多いため、初期段階から専門家である弁護士にご相談されることをおすすめします。
 遺留分侵害額請求を受けられた方や、これから遺留分侵害額請求を行うことを考えられている方は、まずは弁護士にご相談ください。