在日韓国人と相続
第1 適用される法律
日本に住んでいる韓国籍の方がなくなった場合、相続の手続を日本の法律に従って行うことを遺言で明示しない限り、相続では韓国法が適用されます。
日本法と韓国法では、相続順位や相続分等で大きな違いがあります。以下では、韓国法を適用した場合の相続について中心的に説明します。
第2 相続順位(※配偶者は常に相続人となります)
①第1順位:被相続人の直系卑属
被相続人(所有財産が相続の対象となる亡くなった方のことを言います)の子、孫、曾孫等が第1順位の相続人です。子の全員が相続放棄をすれば、孫が相続人となります(曾孫が相続人となる場合も同じです)。
②第2順位:被相続人の直系尊属
被相続人に子、孫、曾孫等がいない場合、被相続人の父母、祖父母等が相続人となります。
③第3順位:被相続人の兄弟姉妹
被相続人に直系卑属、直系尊属、及び、配偶者もいない場合には、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。この点、日本法は被相続人の配偶者と被相続人の兄弟姉妹が同時に相続人となりえますが、韓国ではこのような事態は起こりえません。
④第4順位:被相続人の4親等内の傍系血族
被相続人に上記、第1から第3順位までの相続人がいない場合には、3親等の傍系血族(叔父、叔母、甥姪)、4親等の傍系血族(いとこ、祖父母の兄弟、兄弟姉妹の孫)が相続人となります。
⑤相続人不在の時
上記相続人が不在の場合は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護をした者、その他被相続人と特別な縁があった者が遺産を相続します。しかし、そのような者すらいない場合には、被相続人の財産は国庫に帰属することになります。
第3 相続分
ところで、配偶者は、直系卑属若しくは直系尊属と共に相続人となることがあります。この場合、配偶者の相続分は直系卑属(直系尊属)の5割増と定められており、子どもが多いほど、配偶者の相続分が減ることになります。
したがって、相続財産が7000万円、相続人が配偶者と子2人の場合は、7000万円を1.5:1:1の割合で分けることになり、配偶者が3000万円、子2人がそれぞれ2000万円を相続することになります。
第4 代襲相続
代襲相続というのは、本来血族として相続人になるはずだった人が、相続開始以前(同時死亡を含む)に死亡していた時などに、その子や孫が代わって相続人になるという制度です。
代襲相続人となりえるのは、被相続人の直系卑属若しくは被相続人の兄弟姉妹の直系卑属のみであり、直系尊属及び4親等以内の傍系血族には認められません。
ここで、被相続人の直系卑属、兄弟姉妹が相続開始前に死亡・欠格者になった者の配偶者は代襲相続する直系卑属と同順位で共同相続人になり、その代襲相続すべき者がいない場合、単独相続人になると定められています。すなわち、代襲相続は死亡・欠格者になった者の配偶者と直系卑属のワンセットですることになります。
この点は、相続開始以前に死亡・欠格者となった者の配偶者は、代襲相続人となりえない日本法とは大きく異なる点です。
第5 遺留分
被相続人の兄弟姉妹以外の相続人には相続開始とともに、相続財産の一定割合を取得できるという遺留分権が認められています。すなわち、遺言で「すべての財産を○○○に相続させる」と記載しても、遺留分権利者を救済する仕組みが用意されているわけです。
被相続人の直系卑属と配偶者はその法定相続分の2分の1、被相続人の直系尊属と兄弟姉妹はその法定相続分の3分の1が遺留分となります。
遺留分は被相続人の相続開始時において持つ財産の価額に贈与(相続開始前の1年間に行ったものに限られます)財産の価額を加算して債務の全額を控除して算定されます。
第6 相続放棄
被相続人が多額の借金を背負っていた場合など、相続人が相続放棄を望むことがあります。先ほど述べさせていただいた通り、韓国籍の方の相続手続には韓国法が適用されるのが原則ですが、日本の家庭裁判所でも相続放棄手続を行うことが可能です。
しかし、被相続人が韓国にも相続財産(借金等の負の財産も含みます)がある場合は日韓両国において相続放棄の手続が必要です。これは、他国での相続放棄の効力を国内においても認める規定が、日韓の法規にはないことが原因です。
韓国で、相続人が相続を放棄するには、相続開始を知った日から3カ月以内に、家庭裁判所(韓国ソウル家庭法院)に放棄の申告(届出)をしなければなりません。放棄は、家庭裁判所に申述書を提出し、審判によって成立します。
しかし、在日韓国人は、遺産や被相続人の最後の住所、相続人の住所が日本にある場合には、相続開始を知った日から3カ月以内であれば、日本の家庭裁判所で相続放棄の申述を申請することができます。
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