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認知症の人が残した遺言書は無効になるのか

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第1  はじめに

 一部の相続人に有利な内容の遺言書が存在していた場合、相続人間において、遺言書の有効性が争われることが多々あります。特に、遺言者が認知症であった場合には、遺言を作成した当時、遺言能力があったかどうか争われることが多いです。以下では、認知症の人が残した遺言書の有効性や、後々遺言能力が争われた場合に備えて準備すべきこと等について、詳しく説明していきます。

第2  遺言能力とは

 遺言をする者には、民法上、遺言能力が必要とされています(民法963条)。遺言能力とは、遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識しうるに足りる意思能力のことをいいます。例えば、遺言書で「長男にすべての財産を相続させる」と記載した場合、全財産が長男に渡ることになること、その結果、他の相続人が財産を受け取れず不利益を被るということ等が理解できることが必要です。
 遺言能力は、以下で記載するとおり、画一的な基準によって定まるものではなく、遺言の内容に応じて要求される程度が異なります。

第3  遺言能力の判断基準

 遺言能力の有無は、医学的判断を尊重しつつ、最終的には裁判所が法的に判断をします。そのため、医師が作成した診断書のみによって、遺言能力の有無が判断されることはありません。
 裁判所は、遺言能力の有無の判断にあたって、①遺言者の精神上の疾患・重症度を主として考慮したうえで、②遺言作成時の個別具体的な事情遺言作成時及びその前後の状況遺言内容の難易遺言内容の合理性・動機の有無)を総合的に考慮します。

1 精神上の疾患・重症度について

① 認知症とは

 認知症とは、脳の病気や障害など、様々な原因により認知機能が低下し、日常生活全般に支障をきたす病気のことをいいます。認知症の主な症状は、記憶障害、見当識障害であり、周辺症状として、妄想、幻覚、徘徊等の異常行動に出ることがありますが、これらの周辺症状については、認知症の進行度と必ずしも比例するものではないと言われています。したがって、遺言者が認知症と診断され、異常行動が多く見受けられる場合であっても、裁判所において遺言能力が否定される訳ではありません

② 認知症の検査方法

 認知能力のレベルを評価するために、最も良く利用されるのは、長谷川式簡易知能評価スケールです。この評価スケールにおいて、30点満点中20点以下の場合、認知症の疑いがあるとされています。もっとも、長谷川式簡易知能評価スケールは、簡易な知能検査であるため、点数のみによって、認知症の重症度を正確に測定することはできません。もっとも、10点未満の場合は、遺言能力が否定されるケースが多いといえます。

2 遺言作成時の個別具体的な事情について

 主に、遺言作成時及びその前後の状況遺言内容の難易、補助的に、遺言内容の合理性・動機の有無を考慮して判断されます。

① 遺言作成時及びその前後の状況

 病院での診療録・看護記録から、遺言者が遺言内容を理解できる状況にあったか判断されることがあります。もっとも、公正証書遺言の場合、公証人が遺言能力を確認したはずであると考えられるため、遺言作成時の遺言能力に問題はなかったものと判断されることが多いといえます。

② 遺言内容の難易

 裁判所の傾向としては、「相続人一人に全ての財産を相続させる」、「相続人数人に按分して相続させる」といった簡易な内容であれば、遺言者自身が内容を理解して、遺言書を作成したとして、遺言能力を肯定することが多いです。
 他方で、「複数の財産を異なる比率で分割する」いった複雑な内容の場合、財産の数が多く、配分比率が細かいほど、遺言者自身は内容を理解できなかったはずであるとして、遺言能力が否定される可能性が高まります

③ 遺言内容の合理性・動機について

 遺言者と相続人との人間関係に照らして、そのような遺言をする動機があったか否か、相続財産や相続人の生活状況を踏まえると遺言内容に合理性があるかといった点も補助的に考慮して、遺言能力の有無が判断されます。

第4  遺言能力の争いを防ぐための対策

 上記のとおり、裁判所は、医学的判断だけでなく、遺言作成時及びその前後の状況、遺言内容の合理性・動機についても、総合的に考慮します。そのため、遺言者は、遺言書作成前に、遺言書を作成するに至った経緯や、なぜそのような遺言内容にしたかについて説明する内容の動画を残したり、別途遺言理由書を作成しておくと、後々、相続人間で、遺言書の効力が争われた場合であっても、遺言書の有効性が認められる可能性が高いでしょう。

第5  まとめ

 以上のとおり、認知症の人の遺言能力の有無については、医学的判断以外にも様々な事情が考慮されるため、判断が難しいものといえます。認知症であった被相続人が残した遺言書の効力を争いたいという方や、有効な遺言書を作成したいとのご希望がある方は、是非弁護士にご相談ください。

 

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