空き家問題と相続
第1 空き家の増加とその原因
兵庫県内において適切に管理されていない空き家は14万7700戸(住宅総数の約5.4%を占める。)、神戸市内においても適切に管理されていない空き家は3万7160戸(住宅総数の約4.5%を占める)あるといわれています。
・空き家の利用予定がなく、今後の対応が分からない
・解体費用の支出が困難
・売り手・貸し手が見つからない
・更地にすることで固定資産税が増加する、
などの理由から、早期の対応ができていないのが現状です。
固定資産税については、住宅用地の特例措置の適用があれば、住宅用地に対する固定資産税が最大6分の1に減額、都市計画税も最大3分の1に減額されます。
ところが、空き家を解体すると特例措置を受けられなくなるので、固定資産税が増額するのです。
解体費用をかけ、さらに固定資産税が増額することになれば、空き家を放置していた方が経済的ということなのです。
第2 空き家増加の問題点
1 建物の老朽化による倒壊の危険
建物が老朽化すると、自然災害等によって倒壊し、周囲の人・物に危害を与えるおそれがあります。
そのような場合、空き家の所有者は、土地工作物責任(民法717条)を負うことになります。
2 防犯・防災上の問題の発生
不審者のたまり場になり、犯罪の温床になるおそれがあります。
また放火による火災の発生等も起きています。
3 衛生上の問題の発生
ごみの不法投棄等による衛生問題が発生するおそれがあります。
具体的には、野良猫やネズミの繁殖、害虫の発生が起こり得ます。
4 景観の悪化周辺不動産の価値下落の派生
樹木等が伸び放題、落書き等による見栄えの悪化等、周辺地域のイメージや住環境が劣化するおそれがあります。また、周辺不動産の資産価値の下落を招くおそれがあります。
第3 相続人の対策
1 換価分割
相続人全員で第三者に売却し、売買代金を相続人で分ける方法です。
相続人全員が、誰も不動産の所有・管理を望まない場合は、早期に売却することが望ましいです。
売却することが難しい不動産もあります。
2 代償分割
相続人の誰かが不動産を取得し、その他の相続人に代償金を支払う分割方法です。
相続人のうちの誰かが今後不動産を所有・管理することになりますが、その他の相続人は所有権を手放せるため、管理責任がなくなります。
3 相続土地国庫帰属制度
令和5年4月27日より相続土地国庫帰属制度がスタートしました。
手数料が必要となりますが、この制度を利用すれば、手放したい土地を国庫に帰属させることができます。
ただし、利用できる土地の条件があるため、条件に当てはまらない場合は利用することができないことになります。
4 相続放棄
相続放棄をすれば、初めから相続人とならなったものとみなされ、被相続人の遺産を一切引き継ぎません(民法939条)。
このため、相続放棄をしていた時点で、その不動産を占有・管理していない場合は、相続放棄をすればその不動産に関する責任を負うことはありません(民法940条1項)。
5 空き家を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除の特例(平成28年度改正)
被相続人のみが居住していた家屋・敷地を、相続人が相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡した場合に、譲渡所得から3000万円が控除される制度が創設されました。この結果、相続人が被相続人の居住用財産を譲渡しやすくなりました。
上記特例の適用が認められるには、次の要件が必要となります。
①相続により空き家になったこと
②昭和56年5月31日以前に建築された建物であること
③相続から3年を経過する日の属する12月31日までに譲渡すること
④要件を満たす証明書が発行されていること、など
対象不動産の購入が古い場合、購入金額を示す資料がないことが多いため、高額の譲渡所得税が発生する可能性があります。
そのような場合にも、上記特例の適用が認められれば、相続人の経済的負担は相当程度軽減され譲渡しやすくなります。
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