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家督相続など旧民法が関係する場合の相続

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第1 相続は相続開始時の民法が適用される

 何代も前の先祖の古い不動産登記が残っている場合は、誰が相続人であるか特定するのに注意が必要です。相続においては、相続開始時(被相続人の死亡時)の民法の規定が適用されることになるためです。
 このため、古い相続の場合は、相続人が誰であるか、法定相続分はいくらであるかについて、十分注意して判断することが必要となります。

第2 日本の相続法の変遷

明治6年1月22日 華士族家督相続法が発せられる(初めての成文法。華族と士族のみ適用)

明治6年7月22日 華士族家督相続法改正(原則として長男が家督相続人となる)

明治8年5月15日 華士族家督相続法が平民にも適用されることになる

明治31年7月16日 旧民法施行(長男の家督相続が原則とされる)

昭和22年5月3日 「民法の応急的措置に関する法律(応急措置法)」が施行
         (戸主や家督相続がなくなる、配偶者が常に相続人となる、相続人の順位変更)

昭和23年1月1日 新民法が施行

昭和37年7月1日 新民法の改正法が施行(第1順位の相続人が直系卑属から「子」へと変更)

昭和56年1月1日 新民法の改正法が施行(配偶者と第1順位以下の相続人の相続分の割合変更、兄弟姉妹が相続人である場合の代襲相続人が兄弟姉妹の子までに制限された)

平成25年9月4日 最高裁大法廷決定(嫡出子と非嫡出子の相続分の区別は平成13年7月当時には違憲状態にあった旨の判決)→平成25年12月11日に民法が改正されるが、平成13年7月1日から適用される運用となる。

第3 明治31年7月16日~昭和22年5月2日までの間に開始した相続(旧民法)【戦前】

 旧民法は「家」を中心としており、家長である「戸主」とそれ以外の「家族」により構成されています。戸主について死亡、隠居等の事由が生じた場合は、家督相続が開始します。家督相続が開始すると、家督相続人が新戸主となり、前戸主の有した一切の権利義務を承継することになります(旧民法986条)。また、系譜、祭具及び墳墓の所有権は、家督相続の特権に属します(旧民法987条)

【家督相続人の順序】

第1順位 第1種法定家督相続人
第2順位 指定家督相続人
第3順位 第1種選定家督相続人
第4順位 第2種法定家督相続人
第5順位 第2種選定家督相続人

 第1順位である「第1種法定家督相続人」は、被相続人の家族である直系卑属であり、次の順序に従って家督相続人になります。多くは、戸主の長男が家督相続人となり、長男が一人で跡取りになります。

【第1種法定家督相続人の順序】

 1 親等の異なっている者の間にあってはその近い者を先にする
 2 親等の同じ者の間にあっては男を先にする
 3 親等の同じ男又は女の間にあっては嫡出子を先にする
 4 親等の同じ嫡出子、庶子(認知された非嫡出子)及び私生子(認知されていない非嫡出子)の間にあっては嫡出子及び庶子は女であっても私生子より先にする
 5 以上の4規定に掲げた時効について同じ者にあっては年長者を先にする。

第4 昭和22年5月3日~昭和22年12月31日までの間に開始した相続(応急措置法)

 戦後、個人の尊厳と両性の平等を基調とする日本国憲法が公布・施行されたことに伴い、家制度を基本とする相続法が全面改正されることになり、改正までの間の暫定的な法律として、民法の応急的措置に関する法律が昭和22年5月3日から施行されることになりました。

 これにより、旧民法の戸主や家に関する規定、家督相続が不適用となりました。

 配偶者は常に相続人となり、①第1順位の相続人が直系卑属、②第2順位が直系尊属、③第3順位が兄弟姉妹となりました。現行の民法と比較して、配偶者の相続分が少なくなっています。
 兄弟姉妹については代襲相続の規定の適用がなく、半血の兄妹姉妹の相続人と全血の兄妹姉妹の相続分の区別はされていませんでした。

 ①配偶者と直系卑属が相続人→ 配偶者の相続分は3分の1、子の相続分は3分の2
 ②配偶者と直系尊属が相続人→ 配偶者の相続分は2分の1、直系尊属の相続分は2分の1
 ③配偶者と兄弟姉妹が相続人→ 配偶者の相続分は3分の2、兄妹姉妹の相続分は3分の1

 ※同じ順位の相続人が数人いる場合は、各相続分は同等となる。
 ※非嫡出子の相続分は、嫡出子の2分の1となる。 
 ※兄弟姉妹の代襲相続はない
 ※半血兄弟と全血兄弟の相続分は同じ

第5 昭和23年1月1日~昭和37年6月30日までの間に開始した相続(新民法)

 応急措置法と基本的には同じですが、兄妹姉妹の代襲相続が認められ、半血の兄妹姉妹の相続分が全血の兄妹姉妹の相続分の2分の1とする規定が設けられました。

 ①配偶者と直系卑属が相続人→ 配偶者の相続分は3分の1、子の相続分は3分の2
 ②配偶者と直系尊属が相続人→ 配偶者の相続分は2分の1、直系尊属の相続分は2分の1
 ③配偶者と兄弟姉妹が相続人→ 配偶者の相続分は3分の2、兄妹姉妹の相続分は3分の1

 ※同じ順位の相続人が数人いる場合は、各相続分は同等となる。
 ※非嫡出子の相続分は、嫡出子の2分の1となる。 
 ※兄弟姉妹の代襲相続は無制限に認められる。
 ※半血兄弟の相続分は全血兄弟の2分の1となる。

第6 昭和37年7月1日~昭和55年12月31日までの間に開始した相続(民法37年改正)

 第1順位の相続人が「直系卑属」から「子」に改められました。
 相続人の特定については、昭和23年1月1日施行の旧民法と同じとなります。

第7 昭和56年1月1日~平成13年6月30日までの間に開始した相続(昭和55年改正)

 法定相続分が変更され、配偶者の相続分が増えました(現行民法と同じ相続分)。
兄妹姉妹の代襲相続が、その子まで(被相続人の甥と姪まで)に制限されました。

 ①配偶者と子が相続人   → 配偶者の相続分は2分の1、子の相続分は2分の1
 ②配偶者と直系尊属が相続人→ 配偶者の相続分は3分の2、直系尊属の相続分は3分の1
 ③配偶者と兄弟姉妹が相続人→ 配偶者の相続分は4分の3、兄妹姉妹の相続分は4分の1

 ※同じ順位の相続人が数人いる場合は、各相続分は同等となる。
 ※非嫡出子の相続分は、嫡出子の2分の1となる。 
 ※兄弟姉妹の代襲相続は、兄妹姉妹の子までに制限される。
 ※半血兄弟の相続分は全血兄弟の2分の1となる。

第8 平成13年7月1日~平成25年9月4日までの間に開始した相続(平成25年最高裁決定による)

 平成25年9月4日の最高裁大法廷決定において、非嫡出子の相続分が嫡出子の相続分の2分の1と定められているのが少なくとも平成13年7月には違憲状態になっていると判断されました。このため、当時の民法には規定されていないものの、平成13年7月1日~平成25年9月4日までの間に発生した相続にについても、非嫡出子の相続分を嫡出子と同等として扱うことになりました。

 なお、この期間に生じた相続で、非嫡出子の相続分が2分の1であることを前提としてすでに遺産分割が終了しているものについては、その遺産分割の効力は否定されないことになります。

 ①配偶者と子が相続人   → 配偶者の相続分は2分の1、子の相続分は2分の1
 ②配偶者と直系尊属が相続人→ 配偶者の相続分は3分の2、直系尊属の相続分は3分の1
 ③配偶者と兄弟姉妹が相続人→ 配偶者の相続分は4分の3、兄妹姉妹の相続分は4分の1

 ※同じ順位の相続人が数人いる場合は、各相続分は同等となる。
 ※兄弟姉妹の代襲相続は、兄妹姉妹の子までに制限される。
 ※半血兄弟の相続分は全血兄弟の2分の1となる。
 ※非嫡出子と嫡出子の相続分は同等(条文上は2分の1となっている) 

第9 平成25年9月5日~現在(現行)

 現行の民法では、非嫡出子の相続分が嫡出子の相続分と同等となる改正がされました。

第10 相続人を特定する際のポイント

 まずは、戦前の家督相続(昭和22年5月2日まで)が適用されるかを確認します。家督相続は、現在の相続法とは全く違う考えに基づくため、ここを間違えると全く違う結果になります。戦前か戦後か、ということをまず考えていただけたらと思います。

 また、昭和56年には、相続分が改正されて配偶者の相続分が増えています。ここも相続分についての大きな改正になりますので、これを見落とすと相続分を間違ってしまう可能性もあります。

 このため、①戦前か戦後か(昭和22年5月2日までか)②昭和56年以降か、というのが相続分を間違わないための大事なポイントとなります。

 相続人と相続分についてお悩みの方は、是非一度法律事務所瀬合パートナーズにご相談ください。

 

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