固定合意と除外合意について
第1 株式の贈与は特別受益として遺留分で考慮される
会社の後継者である長男に会社の株式を生前贈与した場合、この贈与は、長男が生計の資本として受けた贈与(特別受益)として、遺留分を算定する際にこの贈与が加算されて遺留分が計算されることになります(民法1043条)。(相続開始前10年以内に贈与があった場合)
そして、このとき、会社の株式は「相続開始時」の評価額を基準にして遺留分の計算に入れることになります。
このため、例えば、後継者が生前に会社の株式の贈与を受け、その後、後継者の経営手腕により会社の株価が高くなった場合でも、遺留分侵害額を計算する場合は「相続開始時」の高い株価を相続財産に加算して、それを基準に遺留分侵害額を計算することになります。
そうなると、後継者は、他の相続人から高額の遺留分侵害額請求を受けることになり、そのための資金を準備しなければならず、大きな負担となります。
第2 固定合意と除外合意
このような問題を解決するため、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下「円滑化法」といいます。)において、民法の特例制度が定められています。
1 固定合意
後継者が贈与を受けた株式について、遺留分の計算に算入する価額を、相続開始時ではなく「合意の時における価額」とすることを、後継者と推定相続人全員で合意することができます(円滑化法4条1項2号)。
これにより、遺留分の計算に参入する株式の価額が「合意時の価額」に固定されることになります。このため、将来会社の株式の評価額が上がった場合でも、遺留分の計算の際には、この合意した価額が算入されるため、予想外に高額な遺留分を支払わなければならないという事態を避けることができます。
また、後継者としては、株式の評価額が上がることを気にすることなく経営をすることができるため、思う存分、経営手腕を発揮することができます。
2 除外合意
後継者が贈与を受けた株式の全部又は一部について、その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しないことを、後継者と推定相続人全員で合意することができます(円滑化法4条1項1号)。
この除外合意をした場合、合意した株式については、遺留分の計算の際に、その株式の価額を算入しなくて良いことになります。その結果、後継者が、他の相続人に対して支払うことになる遺留分侵害額の負担を大きく減らすことができることになります。
なお、この固定合意と除外合意を併用することは可能です。
第3 合意する際の手続の流れと要件
合意は書面でする必要があり、旧代表者の推定相続人と後継者が全員で合意をする必要があります。
固定合意と除外合意をする際に、後継者がすでに株式を所有しており、その所有する株式の議決権が議決権数の50%を超えている場合は、後継者が追加取得する株式を対象として、固定合意や除外合意をすることができません(円滑化法4条本文)。
また、将来、後継者が合意の対象となった株式を処分したり、経営に従事しなくなった場合に備え、合意の際、後継者以外の相続人が取ることができる対抗措置を定めておく必要があるとされています(円滑化法4条4項)。
合意ができた場合、後継者は、合意をした日から1か月以内に「遺留分に関する民法の特定に係る確認申請書」に必要書類を添付して、経済産業大臣の確認を受けます(円滑化法7条)。
申請マニュアル
確認申請書(様式第1)【会社向け】
合意書の一例(後継者が推定相続人である場合)
合意書の一例(後継者が推定相続人でない場合)
経済産業大臣の確認書の交付を受けた後継者は、確認を受けた日から1か月以内に家庭裁判所に申立てを行い、その許可を受ける必要があります(同法8条)。
第4 固定合意と除外合意をする際の注意点
固定合意と除外合意は、後継者と推定相続人全員で合意する必要があります。合意をすることで、後継者ではない相続人の遺留分が大幅に減額される結果となるため、相続人全員の合意を得ることが難しいかもしれません。特に、後継者が、親族ではない第三者の場合は、相続人全員が合意することは非常に困難でしょう。
また、将来会社の株式の評価額が上がると思われる場合は、後継者にとって固定合意をするメリットがありますが、逆に合意後に株式の評価額が下がった場合はデメリットとなります。このため、相続開始前から、株式の評価額について定期的に計算しておくなどして、固定合意と除外合意を行うメリットがあるかを検討しておく必要があります。
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