遺産分割協議の10年期限
第1 初めに
「遺産分割協議」という言葉を聞いたことがある方は多くいらっしゃると思います。
法律上、この遺産分割協議に期間の制限はなく、被相続人が亡くなってから何十年、何百年と時間が経っても、遺産分割協議をすること自体は可能です。しかし、令和3年に民法が改正されたことで、実質的に遺産分割協議の期限は10年といわれるようになりました。
今回は、この民法改正の内容をご紹介したいと思います。
第2 遺産分割協議の期限
1 遺産分割協議とは
遺産分割協議とは、被相続人の財産を、誰が、どのような割合で取得するかを相続人間で話し合う手続です。必ず、相続人全員で話し合う必要があり、一人でも相続人が欠けていた場合には、その話し合いは無効となり、再度相続人全員で遺産分割協議をやり直す必要があります。
冒頭でも説明した通り、この遺産分割協議自体に期間制限はありません。そのため、被相続人が亡くなってから数十年経っても、相続人全員で話し合い、合意を形成することができれば、その遺産分割協議は有効といえます。
2 民法改正
⑴ 問題の所在
ただ、遺産分割協議について、全く期間制限がないということは、以下のような問題点をはらんでいました。
まず、被相続人が亡くなったにもかかわらず、遺産分割がされないまま何十年も放置されると、相続人の中で相続が生じ、どんどん相続関係が複雑になっていきます。その結果、時間が経てば経つほど、相続人が増え、遺産を管理したり、処分したりすることが難しくなってしまいます。
また、遺産分割をする際には、法律でもともと決められた相続分(これを「法定相続分」といいます。)を基礎に、特別受益(特定の相続人に対する生前贈与等)や寄与分(被相続人の療養看護に従事したこと、被相続人の財産を管理してその維持形成に貢献したこと等)による修正を施した相続分(これを「具体的相続分」といいます。)を算定し、この具体的相続分通りに遺産を分けるのが一般的です。しかし、被相続人が亡くなってから何十年も放置されれば、この特別受益や寄与分に関する証拠が散逸し、具体的相続分が算定できないという事態が生じてしまいます。
⑵ 改正の内容
上記問題を解消するため、令和3年4月、民法が改正され、遺産分割に関して新しいルールが設けられました。その内容は、被相続人が亡くなってから10年を経過した後にする遺産分割協議においては、原則として、特別受益や寄与分を主張することができないというものです。
このルールによって、被相続人が亡くなってから10年を経過した場合には、法定相続分通りでしか遺産分割協議をすることができなくなりました。ただし、相続人全員が特別受益や寄与分を考慮した具体的相続分による遺産分割をすることに合意した場合には、従来通り、具体的相続分による遺産分割をすることが可能です。
3 経過措置
上記ルールは、令和5年4月1日から施行されています。ただし、改正によって不利益を被る人を可能な限り少なくするため、場合によって、猶予期間が設けられています(これを「経過措置」といいます)。
⑴ 令和5年4月1日時点で相続開始から5年以内の場合
猶予期間は設けられていません。そのため、令和3年4月1日に相続が開始した場合、令和13年3月31日を経過すると、これ以降は特別受益や寄与分を主張することはできなくなります。
⑵ 令和5年4月1日時点で相続開始から5年超、10年未満の場合
5年の猶予期間が設けられています。そのため、令和10年3月31日が経過するまでは、特別受益や寄与分を主張することができます。
⑶ 令和5年4月1日時点で相続開始から10年以上経過している場合
5年の猶予期間が設けられています。そのため、何十年も前に相続が開始した場合でも、⑵と同様、令和10年3月31日が経過するまでは、特別受益や寄与分を主張することができます。
第3 終わりに
今回は、遺産分割に関する新しいルールをご紹介しました。
今回の問題に限られず、遺産分割についてお困りの方は、相続分野に詳しい弁護士にご相談されるのがよいでしょう。