熟年再婚における相続問題と家族間のトラブルを防ぐための対策
第1 熟年再婚の増加とトラブル
近年、熟年再婚が増加していますが、それに伴い相続問題や家族間でのトラブルが深刻化しています。特に、再婚相手や前の配偶者との子が相続人に加わることで、遺産分割に関する争いが発生しやすくなっています。
今回は熟年再婚における相続問題と、それを未然に防ぐための対策について解説します。
第2 熟年再婚時の法定相続人
再婚時における法定相続人の範囲や法定相続分の割合を確認していきましょう。
民法では、被相続人の配偶者は常に相続人となると定められています(民法890条)。このため、熟年再婚をした場合、再婚した配偶者は法定相続人となります。
離婚した配偶者(前妻など)は、配偶者ではなくなっているため相続人にはなりません。
また、被相続人に前妻(前夫)との間の子がいる場合、その子も相続人となります(民法887条1項)。
このため、熟年再婚をした場合で、前妻(前夫)との間に子がいる場合は、再婚した配偶者と前妻(前夫)の子が法定相続人となります。その場合の相続分は、配偶者が2分の1、子が2分の1(子が数人いるときはこれを平等に分ける)となります(民法900条)。
被相続人に子がいない場合は、①直系尊属(親など)→②兄弟姉妹の順で相続人となります(民法889条)。
このため、例えば、被相続人に子がなく、両親がすでに死亡しており、兄弟がいるような場合は、再婚後の配偶者と、兄弟姉妹が法定相続人となります。この場合の相続分は、再婚した配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1(兄弟姉妹が数人いる場合はこれを平等に分ける)となります(民法900条)。
第3 熟年再婚の場合は相続トラブルになることも
例えば、前妻の子と再婚後の配偶者が相続人となる場合、トラブルとなるケースが散見されます。前妻の子としては、熟年再婚をした相手とは交流がなく、「財産目当てで再婚した」という目で見ていることもあり、熟年再婚をした相手に遺産を相続させたくないと思うこともあるようです。
一方、熟年再婚をした配偶者としては、老後の生活を守るためにも一定の財産を相続しておきたいと考えることも多いでしょう。
前妻の子と熟年再婚した配偶者は、もともと赤の他人同士であり、関係性が希薄なことがほとんどであるため、一般的な相続のように「親族間で円満に話し合いで解決する」ということが難しいことがあります。
第3 トラブルを回避するための方策
このため、熟年再婚をした場合、相続トラブルにならないよう、ご自身が亡くなる前に対策を講じることが非常に重要です。以下では、トラブルを予防するために効果的な対策を3つご紹介します。
遺言を作成する
まず一番に考えられるのは、遺言を作成しておくということです。
遺言がない場合、上記のように相続人間で遺産分割協議を行う必要があります。しかし、あらかじめ財産の内容や分け方について遺言を遺しておけば、その通りに分けるだけで済むため、無用な争いを回避することができます。
また、相続分の割合についても、遺言者が自由に決めることができるため、前妻(前夫)の子と再婚相手との子の間で、割合に差を設けることも可能です。
遺言を作成するにあたっては、遺留分に注意する必要があります。遺留分とは、法定相続人が被相続人の財産に有している最低限度の持分のことをいいます(民法1042条以下)。
例えば、前妻(前夫)の子に相続させたくないと考え、「全ての遺産を(再婚後の)配偶者に相続させる」という内容の遺言を作っても、子には遺留分がありますので、子から配偶者に対して遺留分の請求がなされることになります。このため遺留分をめぐるトラブルが生じます。
これを回避するため、相続人の遺留分を侵害しないような内容の遺言書を作成しておきます。つまり、各相続人に、最低でも遺留分相当額の遺産を相続させる内容の遺言にするのです。
遺留分の放棄
先ほど説明した遺留分ですが、実は放棄することができます。遺留分を放棄してもらうことによって、遺留分をめぐるトラブルを回避することができます。
被相続人の生前でも死後でも放棄することは可能ですが、相続トラブルを回避するという意味では、生前に放棄してもらうのが得策でしょう。
生前に遺留分を放棄する場合、家庭裁判所に遺留分放棄の申立てを行い、許可を受ける必要があります(民法1049条)。単に当事者間で書面を作成していたとしても、放棄したことにはならないため、ご注意ください。
裁判所から許可を受けることができれば、遺留分を侵害するような遺言を作成したとしても、遺留分侵害額請求をめぐる争いに発展することはなくなります。
生命保険の活用
生命保険を活用することで相続トラブルを回避することもできます。
生命保険の死亡保険金は、民法上は指定された受取人固有の財産とされるため、相続財産とはなりません。このため生命保険金の受取人は、遺産分割協議を経ることなく保険金を受け取れるのです。これによりスムーズに財産を分けることができます。
例えば、再婚相手の生活を保障するため、再婚相手を死亡保険金の受取人にしておくことが一つ考えられるでしょう。生命保険を活用することで、遺産分割による不平等感を緩和させるという効果も期待できます。
第4 最後に
熟年再婚の相続問題ではトラブルに発展することが少なくないです。しかしながら、自身にとって大切な親族同士が紛争となることは誰でも避けたいと思うことでしょう。
このような親族間での相続トラブルを防ぐためには事前の対策が非常に有効です。このため、熟年再婚をされ、将来の相続問題について不安に感じている方は、一度弁護士に相談することも良いでしょう。