死後に認知が認められた場合は
第1 死後認知により相続人となる場合
死亡した父に対しても、死亡日から3年以内であれば、認知を求める訴えを提起することが認められています(民法787条)。なお、認知請求は、父の死亡後は、検察官を被告として訴えを起こします(人事訴訟法42条)。
認知を認める判決が確定すると、父と子の間に法律上の父子関係が成立することになります。
そして、認知は、出生にさかのぼって効力が生じるので(民法784条)、認知判決が確定することにより、子は、出生したときから父との間で法的な親子関係があったことになります。
このため、父の死後に認知が認められることで、子は父の相続人となります。
第2 遺産分割協議後に相続人となった場合
父が死亡し、死亡当時の相続人間で遺産分割協議が成立したものの、その後、死後認知が認められて、新たに子が相続人に加わった場合、すでに成立した遺産分割協議はどうなるのでしょうか。
遺産分割協議は相続人全員で行わなければならず、相続人が一人でも欠けていたら遺産分割協議は無効となります。
このため、死後認知された子を除いて行った遺産分割協議は、無効になるとも考えられます。
これについては、民法910条において規定があり、「相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する」と定められています。
つまり、すでに行われた遺産分割協議は無効になることはなく、新たに認知により相続人となった子は、相続分に相当する価額の支払いを請求することができることになります。
第3 価額支払請求権の価額算定の基準時
死後認知された子が、民法910条による価額の支払請求をする場合、遺産の評価時点はいつとするのでしょうか。
不動産や株式など評価額が変動する遺産がある場合、いつの時点で遺産を評価するかによって、死後認知された子が請求することができる金額が大きく変わってきます。
遺産の評価時点としては、理論上、①遺産分割時の評価額、②価額の支払いを請求した時点の評価額、③現実に支払いがされる時点の評価額、の3の評価時点が考えられます。
この点、最高裁は、遺産の価額算定の基準時について、「価額の支払いを請求したとき」と判断しました(最判平成28年2月26日)。このように判断することが、当事者の衡平の観点から相当であるということからです。
このため、死後認知をされた子が、他の共同相続人に対して、価額の支払請求をした時点における評価額で相続財産を評価し、法定相続分に応じた価額の支払いを請求できることになります。
第4 請求方法
死後認知された子が、民法910条による価額の支払いを請求する場合、まずは共同相続人との間で協議を行います。
協議がまとまらない場合は、家事審判の申立てを行うのではなく、民事訴訟の手続により請求することになります。
第5 被相続人の配偶者に対して価額請求をすることができるか
例えば、父の相続人として、①父の配偶者と②子1人がいるとして、その後、死後認知により新たに子が相続人となった場合、その子は、父の配偶者に対して民法910条の価額請求をすることができるでしょうか。
死後認知が認められる前の相続分は、父の配偶者が2分の1、子が2分の1となります。
そして、死後認知が認められた後の相続分は、父の配偶者が2分の1、子が4分の1、認知された子が4分の1となります。
このように、死後認知が認められても、父の配偶者の相続分が変わることはありません。
このため、このような場合は、死後認知された子は、父の配偶者に対しては民法910条の価額の支払い請求をすることはできません。この場合、子に対してのみ支払いを請求していくことになります。
第6 遺言がある場合
例えば、父が遺言を遺し、相続人の一人に全ての遺産を相続させると記載していた場合はどうなるのでしょうか。
この場合、死後認知により相続人となった子は、遺留分侵害額請求をすることにより、自己の遺留分を主張できることになります。
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