所在不明な不動産の共有者がいる場合の相続
第1 共有者の所在が不明な場合
例えば、祖父の名義となったままの不動産が残されており、相続登記ができていないという場合があります。この不動産を、相続人のうち誰か1人の名義に変える場合は、祖父の相続人全員で遺産分割協議書を作成するなどの方法を取ることが必要です。
しかし、祖父は何十年も前に他界していて、誰が相続人であるか、相続人がどこにいるのかわからないということがあります。このような場合、どのようにすれば良いでしょうか。
第2 法定相続人を調べる
まずは、不動産の名義人となっている被相続人(祖父や曾祖父など)の法定相続人を調べます。具体的には、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せて、法定相続人が誰であるか調べます(共同相続人であれば戸籍謄本が取得できます)。
また、相続人の戸籍の附票を取り寄せることによって、相続人の現住所を調べることができます。
相続人の氏名と住所を調べることができれば、まずはその住所宛てに郵便を送り、連絡を試みてみます。
第3 相続人の所在等がわからない場合
相続人の住所に郵便を送っても反応がなかったり、「あて所に尋ねあたりません」等として郵便が返送されてくる場合があります。
このような場合、例えば、その住所に実際に訪問してみるという方法があります。実際に訪問してみて、洗濯物が干してあるとか、車が置いてある等、居住している様子があるかどうかを確認します。また、近隣の方からお話を聞いて、その住所にその相続人が居住しているかを確認してみる方法があります。
しかしながら、その調査をしても、その住所には住んでおらず、所在が分からないという場合があります。
第4 所在等不明共有者の持分の取得
このような場合、民法262条の2の制度(所在等不明共有者の持分の取得制度)を使って、所在が不明である共有者の不動産の持分を取得するという方法があります。
この制度は、令和3年の民法改正によって新しく創設されたもので、所有者不明の土地の管理や処分を容易にするための制度です。
(所在等不明共有者の持分の取得) 第二百六十二条の二 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按あん分してそれぞれ取得させる。 |
民法262条の2では、不動産の共有者の中に所在等が不明な共有者がいる場合に、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に所在等不明者の持分を取得させることができる、とされています。
つまり、所在が不明な共有者の持分を取得したいと思う相続人は、裁判所に請求を行って、その所在不明な共有者の持分を取得することになります。
第5 所在等不明共有者の持分の取得の手続
所在等不明共有者の持分の取得のための具体的な手続を定めたものが、改正非訟事件手続法87条となります。
所在等不明共有者の持分を取得したい共有者(相続人)が、裁判所に訴訟を提起し、裁判所から持分を取得する判決を得て、その判決をもって不動産登記を行うという流れになります。
管轄裁判所(同条1項)
所在等不明共有者の持分の取得の裁判を提起する必要があります。そして、この場合の裁判の管轄は、「当該裁判にかかる不動産の所在地を管轄する地方裁判所」となります。
このため、例えば、相続人全員が神戸に居住していても、持分を取得したい土地が札幌にあれば、札幌地方裁判所に裁判を提起することになります。
裁判所の公告(同条2項)
裁判所は、以下の事項を公告し、所定の期間が経過した後に、当該持分取得の裁判を行うことになります。
この公告後、持分取得の裁判をするまで、少なくとも3か月がかかることになります。
(公告事項) |
共有者への通知(同条3項)
裁判所が上記公告をしたときは、所在等不明共有者以外の共有者(登記簿上その氏名等が判明している共有者)に対して、上記公告した事項を通知します。
これは、他の共有者にも、民法262条の2第1項後段による持分取得の機会を与えたり、異議申出(同条2項)の機会を与えることを目的としています。
供託命令(同条5項)
裁判所が、所在等不明共有者の持分の取得の裁判をするには、申立人に対して、裁判所が定める金額の金銭を供託し、かつその旨を届け出ることを命じなければなりません。
この裁判により、所在等不明共有者は、不動産の共有持分を失うことになるため、その損害を補填するために、裁判所が、申立人(持分を取得しようとする者)に、金銭の供託を命じるのです。
このときの供託金の額は、裁判所が決めますが、不動産の評価書、固定資産税評価証明書、不動産業者の査定書などの証拠により、当該持分の時価相当額が定められることになります。
申立人がこの供託命令にしたがわないときは、申立人の申立てが却下されることになります(同条8項)。
第6 持分が相続財産に属する場合
相続開始から10年を経過していることが必要
所在等不明共有者の持分が相続財産である場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る)は、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、この持分取得の裁判ができないとされています(民法262条の2第3項)。
すなわち、冒頭の例のように、祖父名義の不動産が残っていて、それについて相続登記したいという場合は、祖父の死亡から10年以上が経過していなければ、この共有持分取得制度を利用することができないことになります。
遺産分割請求があるときは利用できない
また、当該持分取得請求があった不動産について、遺産分割請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が異議があることを届け出た場合も、裁判所は、この共有持分取得の裁判をすることができないとされています(民法262条の2第2項)。
これは、遺産分割請求がなされているのであれば、その中で適切な分割をするべきであり、この所在不明共有者の持分取得の手続のみを先行させるべきではないと考えられているためです。
第7 持分の取得手続を行う場合は、弁護士に相談を
以上のとおり、所在等不明の共有者がいる場合であっても、持分の取得の裁判を得る方法で、その共有者の持分を取得することができます。
この手続を行うには、裁判手続を経ることが必要であるため、この手続をする場合には弁護士に依頼することが望ましいでしょう。
所在等不明の共有者の持分の取得を希望される場合は、是非一度、法律事務所瀬合パートナーズにご相談ください。