家庭裁判所での遺産分割調停の進め方
第1 話を進める順序がある
調停をすることなく当事者だけで遺産分割の話し合いをするときは、相続にまつわる色々な争点を同時に話し合うことが多いかもしれません。例えば、被相続人の介護をした、被相続人に生前に自宅マンションを買ってもらった、勝手に被相続人の預金を引き出した等の話を同時並行で話して結論を出すというやり方です。
しかしながら、このように様々な争点を同時並行で話すと、遺産分割の話し合いが長期化し、いつまでも解決しないということがあります。このため、家庭裁判所では、争点の順序を決めて話し合いを行っています。これを段階的進行方式といいます。
第2 段階式進行方式とは
家庭裁判所で行われている段階的進行方式は、以下のような順序で話し合いを行うものになります。一つの段階をクリアすると、基本的には前の段階の問題に戻らないようにし、また問題がクリアできない場合は、調停を取り下げ、別に訴訟などで解決するよう求められます。
第1段階 相続人の範囲確定
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第2段階 遺言や遺産分割協議の有無
↓
第3段階 遺産の範囲の確定
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第4段階 遺産の評価の確定
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第5段階 具体的相続分の算定
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第6段階 具体的相続分の確定
第3 第1段階:相続人の範囲の確定
第1段階として、相続人が誰かを確定します。「本件の相続人が〇〇と△△の2名であることを確認する」ということです。相続人が誰であるかということは、通常の場面ではあまり争いになる場面は少ないかもしれません。例えば、高齢の親が突然養子縁組をして、養子縁組が無効であると疑われるような場合は、調停より先に、まずは養子縁組の無効を争って訴訟などで解決し、相続人が誰かを確定することが必要となります。
第4 第2段階:遺言・遺産分割協議の有無
相続人が誰であるかを確認したら、第2段階として、遺言や遺産分割協議の有無を確認することになります。遺言がある場合は、遺言に従って相続をすることになりますので、遺産分割調停をする必要がありません。また、遺産分割協議書が存在し、遺産分割協議が成立していれば、遺産分割はすでに終了しているため、遺産分割調停を進めることはできないことになります。
遺言があるものの、認知症の影響などで遺言の無効であると争う場合、調停より先には、遺言無効確認訴訟などをして遺言の有効性について決着をつけておく必要があります。調停をしている場合に、遺言の無効を争う場合は、調停を取り下げることになります。遺産分割協議の無効を争う場合も同様です。
第5 第3段階:遺産の範囲の確定
第3段階として、本件で遺産分割の対象となる財産を確定します。例えば、被相続人名義となっている不動産について遺産ではなく自分のものである等と主張する者がいる場合は、調停は取下げ、先に訴訟などでその所有権を確認しておく必要があります。
また、葬儀費用や、遺産である収益物件から得た家賃収入、他人名義となっている財産、負債などは、本来は遺産分割の対象にはなりませんが、相続人全員の合意があれば、調停で遺産分割の対象にすることができます。
第6 第4段階:遺産の評価の確定
第3段階で遺産分割の対象となる財産が確定したら、次の段階として、その遺産の評価を決めることになります。評価が問題となることが多いのは、不動産や公開されていない株式などです。
評価についてまずは当事者間での合意を目指すことになります。評価額の合意ができない場合は、鑑定となりますが、鑑定費用が高額になることがあるため、鑑定をしないで合意で解決するケースが多いと思われます。
第7 第5段階:具体的相続分の算定
遺産の評価が確定したら、次は、具体的相続分を決めることになります。具体的相続分とは、寄与分や特別受益を考慮した後の相続分のことを言います。
当事者間の話し合いでは、よく「自分が介護を頑張った」「兄弟の一人が多額の生前贈与を受けた」などの話が先行することがありますが、家庭裁判所の調停では、このような具体的相続分に関する主張については、最終段階で話し合いを行うことになります。
第8 第6段階:具体的分割方法の確定
最後に、各相続人が取得を希望する遺産を確定します。例えば、「相続人〇は自宅不動産を取得し、相続人△は収益物件を取得し、相続人〇は相続人△に代償金として●●円支払う」などです。
第9 まとめ
家庭裁判所の調停では、段階的進行方式に沿って進められますが、実際の調停では、この順番どおりにうまく進まず、色々な争点がごちゃ混ぜになって話が進められることも珍しくありません。ですが、今どの段階の話を行っているかを意識することで、争点が整理され、問題の早期解決につながるため、調停では今どの段階の話し合いを行っているかを意識することが有益です。
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