相続人である親族への建物明渡請求
相続人の1人が相続財産である建物に居住している場合、他の相続人は退去を求めることはできるのでしょうか。
第1 遺産分割協議を行っていない場合
被相続人の遺言が存在せず遺産分割協議を行っていない場合は、相続財産は相続人全員の共有となり、相続人それぞれに相続財産である建物を使用する権利があります。
このため、建物を使用している相続人に対して、建物からの退去を求めたりすることはできません。
相続人に建物から退去してほしいときは、まず相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。そ遺産分割協議において建物を取得すことになった相続人は、取得しなかった相続人に対して建物の使用を拒むことができ、退去を求めることができます。
第2 金銭請求はできるか
共同相続人の一人が、使用貸借等の権原もないのに、相続財産である建物を単独で使用していた場合、何らかの金銭請求をすることができるでしょうか。
これについては最高裁平成12年4月7日の判決が、以下のように判断しています。
共有者が共有物である不動産を単独で占有することができる権原につき特段の主張、立証のない本件においては、他の共有者は、持分に応じた使用が妨げられているとして、単独で共有物を占有する共有者に対して、持分割合に応じて占有部分に係る賃料相当額の不当利得金ないし損害賠償金の支払を請求することができる。
このため、共同相続人の一人によって持分の範囲を超えた建物の占有使用がなされている場合は、持分割合に応じた賃料相当の不当利得返還請求または損害賠償請求が可能となります。ただ、実際にはあまり相続人間でこのような請求をすることは少ないような印象です。
またこの共同相続人一人による建物の単独使用は、遺産分割の中で特別受益に当たることもありません。
第3 被相続人の遺言が存在する場合
被相続人の遺言が存在する場合は、原則として遺言の内容のとおりに遺産が分割されます。
遺言で、相続財産である建物を特定の相続人に相続させるとの記述があれば、当該相続人が建物を取得し、他の相続人に対して建物の使用を拒むことができます。
第4 遺言書が無効になる場合も
遺言があっても、認知症などにより遺言能力がない状況下で書かれたものであるなど、場合によっては遺言が一部又は全部無効となる場合があります。
相続が発生して何か問題が生じた場合は、どのようにして相続の手続きを進めていけばよいか等を含め、ひとまずこの分野に詳しい弁護士にご相談ください。