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遺言書の撤回について

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第1 いつでも遺言を撤回できる

 遺言者はいつでも遺言の方式に従って遺言の全部または一部を撤回することができます(民法1022条)。
 例えば、遺言を撤回したいと思う場合は、新しい遺言書を作り、その遺言書に「〇年〇月〇日付の遺言書は全部撤回する」などと記載すれば、遺言書を撤回することができます。
 また、一部を撤回したい場合は、「前にした遺言のうち、相続人Aに不動産1を相続させるという遺言は撤回する」などと記載すれば、一部のみ撤回することが可能です。
 撤回は、遺言の方式で行う必要がありますが、必ずしも前と同じ遺言の方式で行う必要はありません。例えば、前の遺言が公正証書遺言で作成した場合でも、後に自筆証書遺言で撤回するということも可能です。

第2 遺言書の破棄

1 破棄した場合は撤回とみなされる

 遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなされます(民法1024条)。
 例えば、遺言書を作成した人が、古い遺言書を物理的に破り捨てるなどした場合は、遺言を撤回したものとみなされます。遺言書を焼却する、切断する文面を黒で塗りつぶす、などの行為もこの「破棄」に当たります。
 なお、遺言書を作成した本人ではなく、相続人が遺言書を破棄した場合は、相続欠格事由に当たり、相続人となることができなくなるので(民法891条)注意が必要です。

2 遺言書に斜線を引く行為

 それでは、遺言書の文面全体の左上から右下にかけて赤色のボールペンで1本の斜線を引く行為(遺言書の元の文字は容易に判読可能な状態)は、民法1024条にいう「故意に遺言書を破棄したとき」に当たるのでしょうか。
 これについては、過去に実際に争われた裁判例があります。
 このような事案で、裁判所は次のように判断しました。「赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為は、その行為の有する一般的な意味に照らして、その遺言書の全体を不要のものとし、そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当」であり、「本件遺言書に故意に斜線を引く行為は、民法1024条前段所定の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当するというべきであり、これによりAは本件遺言を撤回したものとみなされる」と判断しました。

3 目的物の破棄も撤回とみなされる

 遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、遺言を撤回したものとみなされます(民法1024条後段)。
 例えば、「ダイヤモンドの指輪を長女に相続させる」という遺言をした後、遺言者がそのダイヤモンドの指輪を捨ててしまったような場合等は、その遺言は撤回されたものとみなされます。また、「建物を長男に相続させる」という遺言をした後、遺言者が、その建物を解体した場合も、その遺言は撤回されたものとみなされます。

第3 抵触部分は遺言の撤回となる

 前の遺言がなされた後に、前の遺言と抵触する内容の遺言がなされた場合、その抵触する部分については、前の遺言は撤回されたものとみなされます(民法1023条1項)。
 例えば、前の遺言書において、「不動産は長男に相続させる」と記載されていたが、その後、新たな遺言書が作成され、「不動産は二男に相続させる」と記載されていた場合は、前の遺言と後の遺言で内容が抵触しますので、前の遺言は撤回されたとみなされ、後の遺言が有効となります(この場合で言えば、「不動産は二男に相続させる」という方が有効)。

第4 抵触行為があると撤回となる

1 抵触部分は撤回とみなされる

 前の遺言がなされた後に、その遺言と抵触する法律行為がなされた場合、前の遺言の抵触部分は撤回されたものとみなされます(民法1023条2項)。
 例えば、「不動産は長男に相続させる」という遺言を遺した後に、遺言者が、その不動産を第三者に売却したり、贈与するような場合です。その場合は、「不動産は長男に相続させる」とした遺言は撤回されたものとみなされます。
 なお、遺贈の対象財産が債権(貸金など)で、遺言者が債権の弁済を受け、その受けたものが相続財産の中にあるときは、その物を遺贈の目的としたものと推定されます(民法1001条1項)。

2 養子縁組をした後に離縁した場合

 生涯扶養を受けることを前提として養子縁組をした上で、遺言者が、不動産の大半を養子に遺贈する遺言をした後、養子に不信感を抱くようになって離縁した場合、その遺言はどうなるのでしょうか。
 これについては、最高裁の判例があり、最高裁は「協議離縁は不動産の遺贈と両立させない趣旨のものとになされた」として遺言は撤回されたと判断しました(最高裁昭和56年11月13日判決)。

第5 遺言を撤回する遺言の撤回

 例えば、最初の遺言(第1遺言)を撤回するという遺言をした後(第2遺言)、撤回を撤回するという遺言をした場合(第3遺言)、最初の遺言が復活するのでしょうか。
 これについては民法1025条本文に規定があり、「撤回された遺言は、その撤回の行為が撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない」とされています。つまり、撤回する旨の遺言が撤回されても、最初の遺言は原則として復活しません。これは、遺言者が最初の遺言の復活を望んでいるかが必ずしも明らかではないことが理由です。

 遺言の撤回でお悩みの方は、是非一度法律事務所瀬合パートナーズにご相談ください。

 

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