「斜線を引く行為と『故意に遺言書を破棄したとき』」
(1)問題提起
遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなされます(民法1024条)。
それでは、遺言書の文面全体の左上から右下にかけて赤色のボールペンで1本の斜線を引く行為(遺言書の元の文字は容易に判読可能な状態)は、民法1024条にいう「故意に遺言書を破棄したとき」に当たるのかが問題となります。
(2)事案の概要
Aの死亡後に発見された遺言書には、その文面全体の左上から右下にかけて赤色のボールペンで1本の斜線が引かれていました。この斜線は、A本人が引いたものです。
(3)本判決
「赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為は、その行為の有する一般的な意味に照らして、その遺言書の全体を不要のものとし、そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当」であり、「本件遺言書に故意に斜線を引く行為は、民法1024条前段所定の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当するというべきであり、これによりAは本件遺言を撤回したものとみなされる」と判断しました。
(4)本判決のポイント
紙面全体に斜線を引くという行為の社会一般的な意味を考えて、「故意の遺言書の破棄」に該当すると判断したことが、大きなポイントです。斜線を引く行為は一般的によく行われるものであり、これから遺言書を作成する人にとって参考になる判例です。