相続が開始したときにやるべきこと
第1 相続が開始したときにやるべきこと
相続は、死亡によって開始します(民法882条)。このため被相続人が死亡した瞬間から遺産相続の問題が生じるのですが、まずどのようなことをする必要があるのでしょうか。
① 相続人が誰であるかを確定する
② 遺言書があるかを確認する
③ 相続財産にどのようなものがあるか確認する
④ 相続放棄・限定承認をするかどうかを検討する
⑤ 税金の申告関係を把握する
第2 相続人が誰であるかを確定する
相続人が誰であるかを確定させるために、戸籍関係書類を入手します。
まずは被相続人の本籍地の市区町村で、除籍謄本を取り寄せます。郵送で取寄せることも可能です。
それに基づき、転籍前の戸籍謄本、改正原戸籍謄本など、被相続人が出生したときから死亡時まで連続した戸籍謄本を取り寄せます。
令和6年3月1日から、配偶者、直系尊属(父母など)、直系卑属(子や孫など)であれば、本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍謄本等の書類を入手できるようになりました(郵送や代理人による請求は不可、窓口交付のみ)。
ただし、実際には、即日交付ができなかったり、交付を受けるまでに時間がかかったりすることがあるようですので、お近くの市区町村役場にご相談いただく方が良いかもしれません。
法務省:戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)
第3 遺言書があるかを確認する
被相続人が遺言書を遺しているかを確認します。
遺言書の中で遺産分割について指定されていたり、場合によっては遺留分侵害の問題が生じてくる場合があるためです。
1 公正証書遺言がある場合
公正証書遺言を遺している場合は、被相続人の死亡後であれば、公証役場で検索することが可能です。全国どこの公証役場でも検索することができます。
2 自筆証書遺言保管制度を利用している場合
また、自筆証書遺言でも法務局に預けている(自筆証書遺言書保管制度)場合は、遺言保管所(法務局)で検索することが可能です。
自筆証書遺言書保管制度 (moj.go.jp)
3 自筆証書遺言を遺している場合
自筆証書遺言を遺している場合で、自筆証書遺言保管制度を利用していない場合は、調査する方法はありません。
実際には、仏壇の引き出しやタンス、貸金庫などに保管されているなどのケースがあるようです。
また、生前に保管場所を特定の相続人に伝えている場合もありますので、他の相続人から事情を聞くなどしましょう。
遺言書を隠匿した相続人は、相続欠格にあたり相続人となることができませんので(民法891条1号)、遺言書を持っている相続人は、すぐに他の相続人に周知するのがよいでしょう。
自筆証書遺言を発見した場合は、家庭裁判所において検認の手続を行うことが必要となります。
遺言書の検認 | 裁判所 (courts.go.jp)
第4 相続財産にどのようなものがあるかを確認する
1 預貯金・証券など
被相続人が有していた金融機関の口座がわかっている場合は、相続開始時点の残高証明書や取引履歴を取り寄せて調査を行います。
取引履歴を取り寄せることで、生前・死後の不明な出金の有無が判明することもあります。
どこの金融機関に口座を有していたか分からない場合は、自宅近くにある金融機関や、被相続人宛ての郵便物などから取引を行っていた可能性がある金融機関の目星をつけ、取引があったかを問い合わせる方法も考えられます。
2 不動産
所有している不動産がわかっている場合は、登記事項証明書を取り寄せます。最寄りの法務局での窓口交付や、郵送でも取寄せることが可能です。
不動産があるらしいがその詳細が分からない場合は、不動産があると思われる市区町村役場で、不動産の名寄帳を取り寄せて調査することも有効です。
3 債務
見落としがちですが、被相続人に債務(借金など)がなかったかどうかも確認しておきます。
遺品の中に、消費者金融の利用明細書や督促状などの郵便物がないかを確認し、それを手がかりに調査することが考えられます。
また、信用情報機関に問い合わせて確認する方法もあります。
信用情報機関は以下の3社があります。
・日本信用情報機構(JICC)指定信用情報機関
・指定信用情報機関のCIC
・全国銀行個人信用情報センター
ほかには、不動産の登記事項証明書を確認し、抵当権が設定されていれば、住宅ローンやその他の借入の有無が分かる場合があります。
第5 相続放棄・限定承認をするか検討する
1 相続放棄
調査の結果、被相続人に多額の借金があった等の場合は、相続放棄を行うかどうかを検討します。
相続放棄は、原則として、被相続人の死亡を知ったときから3か月以内に行う必要があります(民法915条)。
また、必要書類を準備して、家庭裁判所に申述書を提出する方法で行う必要があるため、時間に余裕をもって行うのがよいでしょう。
2 限定承認
限定承認をする場合も、相続放棄と同じく、原則として被相続人の死亡を知ったときから3か月以内に手続を行う必要があります。
限定承認は、相続人全員によってする必要がある他、手続が非常に面倒であることから、あまり使われていないようです。
もっとも、債務超過が明らかではないが、相続財産中に手放したくない財産(自宅不動産や先祖伝来の家宝など)がある場合は、限定承認をすることを検討する場合があります。
このとき、限定承認をした者が、家庭裁判所で選任された鑑定人が評価した価額を弁済することで、その財産を先に取得することが認められています(民法932条)。
このように、限定承認は、債務超過があっても相続財産の限度で弁済する責任のみを負いながら、残したい相続財産を取得することが可能となるのが一番大きなメリットです。
第6 税金の申告関係を確認する
1 相続税の申告
相続税の申告をする必要がある場合には、相続開始のあったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に申告する必要があります。
申告する必要があるのは、遺産総額が基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超える金額を相続する場合です。
なお、ここでいう「法定相続人の数」には、相続放棄をした人の数も含みます。
2 準確定申告
被相続人に所得があり、確定申告をする必要がある場合は、相続人が確定申告をする必要があります。
具体的には、年の途中で死亡した人の場合、1月1日から死亡した日までの所得金額及び税額を計算して、相続のあったことを知った日の翌日から4か月以内に所得税の申告・納税をしなければなりません。これを準確定申告といいます。
3 年金の受給停止手続き
年金を受けていた人が亡くなった場合、年金を受け取る資格がなくなるため、亡くなってから10日(国民年金は14日)以内に「受給権者死亡届」を年金事務所等に提出しなければなりません。なお、日本年金機構に対してマイナンバーを届け出ている人は原則としてこの届出を省略可能です。
年金の受給停止手続きをしない限り、親の死亡後も指定の口座に年金が振り込まれ続けることになります。年金を受給する権利がなくなっているにもかかわらず手続きを怠って年金を受給し続けると、後に不正受給として追及されかねませんので、忘れずに早期に手続きを行う必要があります。
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