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遺留分に配慮するため、信託を活用し株式の自益権と共益権を柔軟に分ける方法

 会社の経営権を自身の指定するものに円滑に承継させたい、しかし相続人が数名いることから遺留分の問題も生じないようにしたい…。そのようにお考えの場合には、会社株式の自益権と共益権を分けて活用することができる信託を利用するのがおすすめです。

【事例】
 Aさん(70歳)は、自らが設立した会社(甲社)を経営しており、甲社の株式を100%保有しています。Aさんには他に目立った財産はありません。Aさんには、妻Bさん、長男Cさん(40歳)、長女Dさん(37歳)がいます。長男CさんはAさんの会社で働いており、Aさんは、将来長男Cさんに会社を継がせたいと考えています。一方、長女Dさんは、Aさんの会社には全く関与しておらず、会社の経営にも興味がありませんが、長男と長女が争いにならないよう、長女にもそれなりの遺産を渡したいと思います。

【信託活用例】
 このような事例の場合、甲社の株式を信託財産として、株式の議決権行使の指図権は後継者である長男Cさんに与え、Aさんが死亡した後は、株式からの経済的な利益(配当や株主優待制度)を受けることを内容とする受益権を長男Cさんと長女Dさんに与える方法が考えられます。
 この方法によれば、株式の議決権行使については長男Cさんのみが行うことになり、長女Dさんはこれに関与することができませんので、長男Cさんが会社の経営権を持つことになります。
 また、株式からの受益権については、Aさんの死後、長男Cさんと長女Dさんに与えます。このとき両名が取得する受益権の割合も指定することができますので、長女Dさんの遺留分を侵害しないように配慮して、それぞれの取得割合を決めることもできます。
  
・遺留分とは?
 ここで、遺留分とは、法定相続人が相続財産から最低限確保することのできる権利のことを言います。今回のケースでは、長女Dさんの遺留分の割合は、遺産総額の8分の1となります(法定相続分の2分の1)。今回のケースで甲社の株式を全て後継者の長男Cさんに与えてしまうと、長女Dさんが相続で何も得ることができなくなり、長女Dさんの遺留分を侵害することになります。遺留分を侵害された長女Dさんは、長男Cさんに遺留分侵害額請求を行うことができますが、そうなると長男Cさんと長女Dさんとの間で法的な紛争となる可能性がありますが、それはAさんが望まないところでしょう。
 だからといって、相続で株式を長男と長女に2分の1ずつ取得させてしまうと、甲社の経営に関心のない長女Dさんが議決権を有することになり、甲社の意思決定に口を出せることになりますが、そうすると、後継者である長男Cさんの甲社の経営に影響が生じることが考えられます。そのため、信託を用いて、株式の議決権行使の指図権は長男Cさんに与え、甲社の意思決定は長男Cさんが行うことができるような仕組みを作るのです。
 なお、Aさんが生きている間は、株式からの受益権をAさん自身が持つようにすれば、長男Cさんや長女Dさんに贈与税はかかりません。その後、Aさんが亡くなった際には、株式による受益権を長男と長女が遺贈により取得したとみなされるため、このときに相続税の課税対象となります。

・信託を活用することのメリット
このように、信託を用いることで、後継者ではない相続人の遺留分を侵害しないよう配慮しつつ、確実に後継者へ会社の支配権を譲り渡し、後継者へ安定的な事業の承継を実現することが可能になります。

・最後に
今回は、信託と遺言書を組み合わせた形での財産の渡し方について解説させていただきました。財産の遺し方について具体的なご希望がある場合には、どのような方法をとることが良いかも含め、専門的な知識を有する弁護士に相談していただくことが有益です。弊所では、信託についてのご相談も、多く取り扱っています。まずは、お気軽にお問い合わせください。