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民事信託において組成支援をする専門家の情報収集提供義務・説明義務について

1.はじめに

 民事信託は通常の契約と比べても当事者が多く、権利義務が複雑になりがちであり、一般の方がその構造やリスクを十分に理解することは非常に困難です。そこで、組成支援をする専門家の存在が重要となります。

2.令和3年9月17日判決の紹介

 では、組成支援をする専門家は、組成支援をするにあたり、誰に対してどのような内容の義務を負うのでしょうか。
 この点について、興味深い判例が出ていますので、ご紹介させていただきます。

 【令和3年9月17日判決】
 この判決は、民事信託の組成支援者である司法書士兼行政書士(兼信託民間資格)が、受任前(受任の準備段階または相談段階)の注意義務を懈怠したとして、信義則に基づく不法行為の損害賠償が認められた事案です。委託者は不動産賃貸業を営む81歳の高齢の父親でしたが、受託者となるべき40歳前後の次男が中心となって、司法書士兼行政書士との間で協議して、信託組成を進めています。
 この点、当該判例は、「組成支援者である司法書士は、委任契約を締結するに先立ち、委託者に対し、信義則に基づき、金融機関の信託内融資、信託口口座等に関する対応状況等の情報収集、調査等を行った上で、その結果に対する情報を提供するとともに、信託契約を締結しても信託内融資及び信託口口座の開設を受けられないというリスクが存することを説明すべき義務を負っている」旨、判示しました。
 そのうえで、当該司法書士が、上記の情報提供をせず、また、上記のリスクが存することを説明しなかったことが不法行為を構成するということで、損害賠償を認めています。

3.解説

 上記判決のように、まず、民事信託を組成支援する専門家は、委託者と委任契約を締結するに先立ち、信義則に基づき、金融機関の信託内融資、信託口口座等に関する対応状況等について、情報収集、調査を行い、その情報を提供しなければなりません。
 この点、信託内融資、信託口口座等に関する金融機関の取り扱いや対応状況は、頻繁に変更されますので、組成支援する専門家としては、常に情報収集と調査を怠らないことが重要です。
 また、組成支援する専門家は、上記の情報を収集・調査するだけでなく、依頼者である委託者に対して、その情報を提供し、信託契約を締結しても信託内融資及び信託口口座の開設を受けられないというリスクが存することを説明しなければなりません。
 日弁連のガイドラインにおいても、依頼者である委託者に対し、信託口口座の開設にあたっては、信託契約書を作成する前に、口座開設の可否及び要件について金融機関に確認することが望ましい旨が定められています。
 そのため、民事信託の組成をお考えの方は、日々、民事信託について研鑽を積まれており、信託契約を組成する際のリスクを十分に説明していただける専門家にご依頼されることをお勧めします。