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民事信託における信託終了権(撤回権)と排除条項の有効性

1.信託終了権

 信託法164条1項では、①委託者と受益者の合意により、いつでも信託を終了すること(信託終了権又は撤回権)ができること、②受託者に不利な時期に信託を終了したときには受託者に対し損害賠償責任が発生することが定められています。
 上記の定めは、裁判によらず、また裁判所の関与なく関係当事者の自治的な処理によって信託の終了を決することができるという考え方を基礎に、信託設定者である委託者と利益を享受する受益者とが一致して終了を了としているのであれば、信託を終了させることが相当であるという考え方に基づくものです(道垣内弘人編著「条解信託法」(弘文堂)701頁参照)。
 また、上記の定めは当事者自治による終了ですので、 ③信託法164条3項は「別段の定め」があれば、同条1項で信託終了権(撤回権)が認められた当事者以外の者に信託終了権(撤回権)が認められます。ただし、委託者が自己を残余財産受益者または帰属権利者としているときに、委託者がいつでも自由に終了できると定めているときなどには、委託者からの財産分離が不完全であると評価されるおそれはあります(道垣内弘人「信託法」(有斐閣)409頁参照)。

 

2.東京地裁平成30年10月23日判決

 では、信託契約において、委託者兼受益者による信託終了権(撤回権)を排除するような内容の定めをすることは、法的に認められるのでしょうか。
 ここで興味深い裁判例があるのでご紹介します。事案の概要と判決の結論は次のとおりです。
 「委託者兼受益者である父親(84 歳)が次男を受託者兼残余権者とする不動産信託契約を結びました。その後、父親は契約から 3 か月後に本件契約の詐欺取消、錯誤無効、信託の終了などを主張し、提訴しましたが、裁判所は、『信託法上の委託者兼受益者による信託終了権(撤回権)を排除する』本件信託契約の「別段の定め」の効力を認めて、訴えを退けました。」

3.解説

 この判決は、信託法164条3項にいう「別段の定め」に該当する契約条項例『「Xは、Yとの合意により、本件信託の内容を変更し、若しくは本件信託を一部解除し、又は本件信託を終了することができ」(委託者兼受益者Xは、受託者Yの合意なくしてその意思のみで信託を終了させることはできない)』ることを明らかにした裁判例として意義を有するといわれています。
 しかし、このような条項は、事実上、受託者の利益のために委託者兼受益者の意思の変更を許さない撤回不能遺言を作り出す結果となっており、被相続人の意思を尊重する相続の基本原則を、受託者の利益のために改変出来てしまっている点が問題と言われています(西希代子「信託による財産の承継」判例百選民法Ⅲ126頁、127頁参照)。
 そのためにも、組成支援をする専門家としては、信託終了権(撤回権)の排除が依頼者である委託者の真意であるのかを組成前に確認することが必須といえます。
 なお、委託者の意思を完全に排除する信託終了権(撤回権)の定め(例えば、受託者と受益者又は信託監督人の合意による終了)が有効かについてまでは、当判例は判断しておらず、今後の課題といえるでしょう。