Q.親が亡くなった後、多額の借金があることがわかりました。相続放棄という手続をしなければならないと聞きましたが、どのような手続でしょうか?
1 相続放棄とは
相続放棄とは,相続人が自分について生じた相続の効果を全面的に消滅させる意思表示です。相続放棄をすると,その相続に関して初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。
つまり,相続放棄をすると,相続開始当初から相続人として存在していなかった扱いになり,一切の相続をしないことになりますので,被相続人の借金を相続することもありません。
2 相続放棄の方法
相続放棄をするには,家庭裁判所に申述するという方式を取らなければなりません(民法938条)。具体的には,相続開始地(亡くなった方の最後の住所地)の家庭裁判所に申述書と必要な添付資料を揃えて提出します。
3 相続放棄に必要な書類
相続放棄をするのに必要な書類は,以下のようなものになります。
① 相続放棄申述書(書式は最高裁判所のHP等からダウンロードしたり,最寄りの家庭裁判所に書式を貰うこともできます。)
② 相続放棄の申述人(放棄する方)の戸籍謄本
③ 被相続人(亡くなった方)の死亡の記載がある戸籍謄本
④ 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本(申述人が被相続人の父母,兄弟等,相続順位が第二第三順位の場合)
(その他,事案によって必要書類が異なりますのでご確認下さい。)
4 必要な費用
相続放棄の申述書を裁判所に提出する際に,以下の費用を裁判所に納める必要があります。
① 800円分の収入印紙
② 郵便切手(提出先の家庭裁判所に金額や内訳を確認してください)
5 期間の制限(熟慮期間)
相続放棄をすることができる期間は,自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければなりません(民法915条)。これは被相続人が亡くなった日から3か月以内という意味ではなく,「死亡」を知ったことに加えて,かつ「自分が相続人になったこと」を知ったときから3か月以内と解釈されています。
また,相続人が,相続財産が全くないと信じたことに理由があるときは,相続財産の全部又は一部の存在を認識したとき(又は通常認識できたとき)から起算されることになります。
このように,相続放棄ができる期間が「3か月以内」とされているものの,「いつから3か月以内か」ということが,その事案や相続人ごとによって異なります。このため,相続開始から相当な期間が経っていても相続放棄をすることができるケースもありますので,これについては弁護士にご相談下さい。
6 相続放棄の期間の延長
相続財産がある一方で,借金もあるような場合は,相続放棄をするかどうか判断に迷うこともあります。その場合は,相続財産や借金を調査した上で,相続放棄をするかどうか判断しなければなりませんので,3か月以内に相続放棄をすることが難しくなります。
その場合は,予め,相続放棄の申述期間を3か月から更に延長してもらうよう家庭裁判所に申請することが可能です(民法915条1項但書)。
7 相続放棄をする場合の例
相続放棄をされる方の例としては,以下のようなものがあります。
① 被相続人に多額の借金があって,財産がほぼない場合
② 被相続人と生前に交流がなく,関わり合いを持ちたくない場合
③ 被相続人がどのような借金を負っているか不明である場合
④ 相続財産を特定の相続人に相続させたい場合
8 相続放棄ができない場合
以下のような場合は,単純承認をしたものとされ被相続人の権利義務を承継し,相続放棄をすることができなくなりますので注意が必要です(民法921条)。
① 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき(例えば,遺産である預金を使ってしまった場合などです。)
② 相続放棄の手続をした後でも,相続財産の全部又は一部を隠匿したり,処分したとき
9 相続放棄の申述後
相続放棄の申述をすると,家庭裁判所で相続放棄を認めるかどうか審理されます。その過程で,申述人に相続放棄の理由についての聞き取りなどがされることもありますが,書面審理だけで相続放棄が認められることが多いです。
相続放棄が認められると,家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が申述人に送付されてきます。もし,相続放棄が却下された場合は,即時抗告することができます。
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