神戸・姫路の弁護士による相続相談弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ(兵庫県弁護士会所属)神戸駅1分/姫路駅1分

Q.遺産分割協議が成立したものの,他の共同相続人が印鑑証明書を交付してくれず,登記 移転手続き等に協力してくれない場合,相続人としては,どのように対応すればよろしい でしょうか?

1.採るべき手段は,その時点での登記名義の状況により異なります。

⑴ 被相続人名義のままの場合

 遺産分割協議が成立すると,各相続人は,相続開始時に遡って,遺産分割協議で合意された財産を取得します(民法909条)。したがって,不動産登記法63条2項により,単独で相続を原因とする移転登記手続を行うことができます。
 この場合,本来であれば遺産分割協議書及び共同相続人の印鑑登録証明の添付によって手続可能です。しかし,印鑑登録証明が欠けている場合,遺産分割協議書が真正に成立したことを証することができず,移転登記手続ができません。
 そのため,このような場合には,民事訴訟法134条の規定に基づき,印鑑登録証明の提出を拒んでいる共同相続人に対する遺産分割協議書真否確認の訴えを提起し,勝訴の確定判決を取得することが考えられます。この確定判決を印鑑証明の代わりに添付することで,移転登記手続を行うことが可能とされています。(参考:東京高判昭和56年11月16日判時1028号54頁)

⑵ 既に相続登記を行い,共同相続人名義になっている場合

 上述のとおり,遺産分割協議が成立すると,その効力は相続開始時に遡ります(民法909条)。しかし,遺産分割協議成立前に既に相続を原因として相続人全員による共同相続登記が行われている場合,登記手続固有の要請から,他の共同相続人との共同申請が必要です(不動産登記法60条)。なお,この際の登記原因は遺産分割となります。
 共同申請が原則であるものの,共同すべき相手の協力が得られない場合に備え,不動産登記法63条1項は「…申請を共同してしなければならない者の一方に登記手続をすべきことを命ずる確定判決による登記は,当該申請を共同してしなければならない者の他方が単独で申請することができる。」と定めています。
 したがって,既に相続登記を行っている場合には,確定判決を取得し,当該判決を債務名義とすることで,単独で移転することが可能です。ただし,確定判決取得にあたっては,以下の点にご注意ください。

① 判決は,登記を請求する相手方に対し既判力のある判決でなければならない

 判決の効力は,登記手続に協力しない登記権利者及び登記義務者の全てに対して及ぶ必要があります。

② 判決は,給付判決でなければならない

 単に遺産分割協議により所有権を取得したことを確認する判決(確認判決)等では,登記移転はできません。遺産分割協議により所有権を取得したことを理由に,移転登記手続を請求する訴訟(所有権に基づく移転登記手続請求)を行うことが適切でしょう。

③ 判決は,確定判決でなければならない

 条文に記載されているとおり,判決は確定判決でなければならず,確定前の判決や仮処分決定等では単独での移転登記手続はできません。

④ 判決は,執行力のある判決でなければならない

 判決に条件等が付されている場合,その条件等を成就しなければ,たとえ確定判決を取得しても単独手の移転登記手続はできません。
 なお,確定判決以外にも,和解調書や調停調書等によっても単独申請は可能ですが,これら調書の作成にはいずれも相手方の合意が必要となります。

2 結論

 以上より,他の共同相続人の協力が得られないようであれば,後に紛争を残さないためにも,適切な確定判決を取得し,移転登記手続を行った上で建物建設を行った方が良いでしょう。なお,訴訟となれば時間や手間もかかりますので,他の共同相続人と話し合いの余地があるようであれば,事前に弁護士を入れた協議や調停を実施することも選択肢の一つでしょう。

 相続、遺産分割協議の問題に関してお困りの方は、相続分野に詳しい弁護士にご相談されることをお薦めします。
                                           以上

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